つい先日、朝日新聞の記事で口腔内崩壊錠(OD錠)の記事が出ていた。
1ページ近く紙面を割いていたのにびっくりした。
そんな、たいそうなものだったのか、と。w
OD錠とは、口の中で溶ける錠剤のことだ。
普通の錠剤と違い、簡単に崩壊するように作ってある。
なので、水なしで服用することが可能。もちろん、水で服用しても良い。
有名なのは、ガスターだろう。
OTCでも、口腔内崩壊錠が市販されている。
医療用では、ガスターD錠。なめてるとミントの味がしておいしい。w
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高齢者で、嚥下能力(飲み込む力)が落ちている人にとっては、
OD錠の存在はありがたい。
錠剤しかないような医薬品だと、粉砕するしかなかったんだけど、
OD錠だと楽に服用できる。
また、胃ろうなどの経管投与の患者さんにとってもそう。
患者さん、というよりは介護者の苦労が減る。
水に入れて、簡単に溶けてくれるので、薬を投与するのが楽。
薬剤師にとっても、楽。
普通なら、粉砕しなければいけない処方でも、OD錠なら問題なかったり。
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ただし、問題点もある。全ての薬にOD錠が存在するわけではない。
高齢者(それも、介護を必要とするような人)なら、薬を数種類のんでる
のが普通。それを全部OD錠でそろえるってのは無理だ。
まぁ、メーカーは「3つのうち1つでもOD錠なら飲みやすい」
って言うけどね。どうせ、水で服用しなければいけないのは変わらない。
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っとここまでが、(おおむね)新聞で書かれていた話。
この記事の流れとしては、「他のメーカーもOD錠を作れ」ってことかなぁ。
服用しやすい製剤は、大歓迎だ。どしどしやってくれ、と。
話はそんなに単純じゃないよ。(私が書くんだから当たり前)
ここまでは、OD錠のオモテの顔だ。実際は、もちろんウラがある。
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メーカーは「患者さんのために」だけ、OD錠を開発しているわけではない。
自社の利益のためにやっている。会社にメリットが大きいんだ。
1つには、後発品対策だ。
OD錠が存在する薬のほとんどは、「特許の切れた」医薬品である。
特許の切れた医薬品は、多くのジェネリック医薬品(後発品)が出る。
つまり、OD錠にすることで、ジェネリック医薬品との差別化ができる。
・・・という理由は、まだ「オモテ」だ。
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「ウラ」は、現在の処方箋様式にある。
医師が「後発品変更不可」に印をしていない限り、
薬局では処方されている先発医薬品を、ジェネリック医薬品に変更できる。
たとえば、アムロジン錠と書かれていて、患者さんがジェネリックを希望すれば、
アムロジンのジェネリックを調剤することができる。
ところが、「アムロジンOD錠」と書かれていた場合は?
アムロジンOD錠から、アムロジンのジェネリックに変更することはできない。
成分は同じでも、剤形がOD錠と普通錠では異なるためだ。
(実は、この辺グレーゾーン。都道府県によって解釈が異なる。)
この結果、「OD錠」で処方してもらえれば、
薬局でジェネリックに変更される可能性は低くなる。
ジェネリックでもOD錠を作れるメーカーはあるが、ごく一部だ。
つまり、「ジェネリックに変えられたくないから」OD錠にするわけ。
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現在OD錠の存在する薬は、ジェネリックのある薬がほとんど。しかも、
特許の切れるタイミングに合わせて、OD錠を発売してくることが多い。
メーカーから「今度、OD錠が発売されます」と聞くと、
「あぁ、そろそろ特許切れるんだな」と反射的に思うくらいだ。w
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もう一つの理由として、単純に売り上げが上がる仕組みがある。
多くの薬は、OD錠を出したからと言って、普通錠を販売中止にしない。
両方、販売を継続する。
こうすれば、単独で販売するよりも売り上げが上がる。
院内で出している病院はともかく、薬局はいろんなところから処方箋がくる。
ある先生が、アムロジンOD錠を使っているといっても、
通常のアムロジン錠の処方が回ってくることもある。
結果、薬局は両方在庫せざるを得ない。当然、総在庫量は多くなる。
薬局の在庫が増えるってことは、メーカーの売り上げが上がるってことだ。
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正直、薬局は困っている。
OD錠出すんなら、普通錠を販売中止にしてくれよ、と。
そうでないと、在庫量が膨らむ一方だ。
薬局が困っている分だけ、メーカーが儲けているんだろうな。
一つ、例を出す。「アムロジン」(成分名:アムロジピンベシル酸塩)の場合、
同じ成分で、別メーカーの「ノルバスク」という薬もある。
アムロジンは大日本住友、ノルバスクはファイザーだ。
本家はファイザーなんだけど、日本では大日本住友が販売している、、のだが、
ファイザーも発売したから、「併売」という状況になっている。
そこで、大日本住友は独自に「アムロジンOD錠」を出した。
当然、アムロジピンの特許切れをにらんでのことだろう。
この流れに、ファイザーが後からのった。w
ファイザーも「ノルバスクOD錠」を発売。実はこれは、普通錠とは逆で、
大日本住友が製造して、ファイザーが販売、という形。
さらに、アムロジピンのジェネリックもわんさか出る。
一部メーカーは、アムロジピンOD錠のジェネリックも出る。
この結果、薬局の在庫は、
アムロジン、アムロジンOD、ノルバスク、ノルバスクOD、
アムロジピンの後発品、アムロジピンODの後発品、
と6種類そろう。実は、それぞれ2規格(2.5mg、5mg)あるので、
下手すれば12種類そろっているはずだ。
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OD錠のある薬は、ほとんどがこんな感じになる。
また、調剤過誤も増える。普通錠とOD錠の間違い、とか。
間違えても、健康被害は発生しそうにないんだけれども、
ミスはミス。
OD錠がそんなに素晴らしいのなら、全部そうすればいい。
なんで、中途半端に普通錠も販売を続けるんだ??
「売り上げがあがるから」以外に何か理由あるとは思えない。
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そういうウラをきれいに隠して、オモテだけを記事にされたから、
ちょっと気になって(正直に言うと、ムカついてw)書いてみた。
他にも安易な合剤(いつか書くかも)の話もあるけど・・・
大手製薬メーカーは、そういう小手先のつまらないとこで稼ごうとせず、
ばしっと新薬を作って欲しいんだけどなぁ。
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