医療費の増大と調剤薬局
国民医療費は、年々増大している。
そのなかでの、薬局調剤医療費もどんどん増大している。
また、国民医療費に占める薬局調剤医療費の割合も、年々増えている。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/09/toukei4.html
(元データは上記リンク)
平成21年度の国民医療費は約36兆円。前年から約1兆2千億増えている。
うち、調剤は約5兆8千億。前年から約4千億増。
薬局が全体に占める割合は、右肩上がりで増えていて、16.2%に達した。
.
今日は、この辺の数字について説明してみる。
たまーに、この数字を見て、
「国民医療費の増大の原因は、医薬分業のため」とか言う人がいるからな。
まず、ここの数字なんだけど、
処方箋調剤を行った分は、「薬局調剤医療費」に入るし、
院内調剤で渡した分は、一般診療の入院外医療費に入っている。
仮に、一つの医療機関が院内調剤から院外調剤に切り替えたとして、
その調剤費は「一般診療・入院外」から、「薬局調剤」に替わることになる。
つまり、医薬分業によって処方箋を新たに発行した場合、
薬局調剤が増えた分だけ、一般診療・入院外が減っているってことだ。
.
もうそろそろ頭打ちだと思うが、「分業率」が上がっている期間に関して言えば、
「薬局調剤医療費」は上がっていて当たり前だ。
一つ数字を挙げておこう。
入院外医療費が初めて12兆円を超えたのが平成8年。この時点で総医療費は28兆4千億。
この時点で、総医療費における入院外医療費の割合は、43.7%。薬局医療費は5.1%
入院外医療費が13兆円の大台にのったのが平成19年。この時点で総医療費は34兆1千億。
入院外医療費の割合は、38.2%、薬局医療費は15%。
この、平成8年から平成19年というのは、医薬分業が急速に進んだ時期に一致する。
なので、総額に対する入院外医療費の割合は減少している。
.
興味深いのは、調剤薬局に薬を出しているにも関わらず、
なぜか入院外医療費の金額が減っていない、という点だ。
また、医薬分業の推進がひと段落した後のここ数年も、
薬局医療費は伸び続けている。実は、これは同じ理由による。
それは、単純に「なぜ国民医療費が増えているのか?」の理由になる。
「国民医療費の年次推移」だけをみていると、確かに調剤薬局が犯人にみえても
おかしくはないが。
.
根本的な原因は、高齢化による医療費の増大だ。
高齢化によって、慢性疾患にかかる人が増えている。それが背景にある。
当たり前といえば当たり前だな。
「医薬分業によって薬局医療費の増大がおこり、総医療費の高騰を招いている」という説は、
「分業率が頭打ちになっている状況でも薬局医療費が増大している」ことの説明はできない。
薬局の経営的には、「分業率が頭打ちになれば、これ以上の増加は見込めない」という考えが
あったが、そんなことはない。実際、分業率が頭打ちになったここ数年の数字をみればよい。
処方箋発行枚数自体も増えている。患者さんの数が増え続けているんだ。
.
「医療費の増大」という言葉があり、診療報酬改定によって4月からお薬代が変わる。
そういうと、「高くなるのでは?」と感じる人が多いと思うが、実際は逆だ。
3月以前と全く同じ薬を同じ量だけ調剤する限りにおいては、
ほとんどの人が以前より安くなっている。
また、現実問題としてジェネリックを推進している訳だから、
安くなっている人はかなり安くなっている。(この部分は、個人差が大きいが)
つまり、ミクロでは安くなっている人が多い。
じゃぁ、なぜトータルでは上がっているのか?
そりゃ、患者さんの数自体が増えている、あるいは病気の数が増えているってことだろう。
それって、要するに「高齢化が原因」ってことでいいんじゃないの?
.
もう一つ、入院の抑制という側面もある。
今まで、長期入院を余儀なくされていた人が、在宅や外来で治療を受けることが多くなってる。
今までなら1ヶ月入院するのが普通だったのに、2週間で病院から出される、とか。
また、医学の進歩により、今までは手術するしかなかったような病気でも、
外来、投薬による治療でなんとかなるようになったところもある。
つまり、入院から外来、在宅に、という流れは確実にある。
そうすると、今まで入院でみていた薬剤費は、薬局に乗ってくる・・・よね。
もちろん、在宅や外来にも乗ってくる。この辺も、表を見れば読めてくる。
.
医薬分業に、全く問題がないとは言わないが、
医療費全体の流れを把握しないままで批判している例も多い。
また、事実誤認も多かったりするし・・・。
例えば、こんなの。
http://www.urban.ne.jp/home/haruki3/iyaku.html
正しいところも、共感するところも多いんだけど、
ツッコミどころも多かった。w
.
分からないのは、ジェネリックを勧めた事によって
どれくらい医療費が削減されたか。
これ、はっきりとした数字が欲しいんだけどなぁ・・・。
そうすれば、「薬局でこれくらい削減されました」って言えるのに。
全くの余談だけど・・・
今年の4月から、後発品と先発品の薬価差を表記するようになった。
これ、先発品を選んだ場合に、「後発ならこれくらい安くなります」
と表示して、後発に変えてもらおうという流れなんだけど、、
後発品を選んだ場合に「これくらい安くなりました!」って表示する
仕組みがあってもいいかなぁ、と思う。これ、私が大阪人だからか?
どれくらい安くできたか、ということで自慢できる土地柄だからな。w
| 固定リンク
「('10~13)仕事(薬局)」カテゴリの記事
- 2013年の記録&カテゴリ変更(2013.12.31)
- うがい薬「のみ」の処方が保険適応外?(2013.12.26)
- ジスロマック細粒の後発品(2013.12.17)
- 新しい吸入薬(2013.12.14)
- 薬が減ったのに薬代が上がる?(その2)(2013.12.03)
コメント
イロイロなデータ表示ありがとうございます。一般の患者さんのために『ジェネリックにしたらこれだけ安くなりました』の表示は、大阪人じゃない私もあったほうがいいと思いますヨ
投稿: すみぱん | 2012-05-14 02:05
やっぱり、「どれくらい安くなったか?」は気になりますよね。
今のところ、レセコンが対応していないのですが・・・
もっとも、それほど安くなってなくて教えたくない薬局もあるかも知れません。(苦笑)
投稿: kitten | 2012-05-14 20:10