医療の進歩と医療費の高騰
少し前の話になるが、
バイエルから、新たな経口抗凝固薬として、イグザレルトという薬が発売された。
まだ勉強会も何もしていないから、詳しいことはわからないけど。
適応は・・・
非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
ようは、心房細動が原因となる脳卒中の予防ってことだ。
(細かい説明は省略)
経口内服薬では、この目的ではワーファリン(ワルファリン)が用いられてきた。
というか、ワーファリン以外に選択肢がなかった。
ところが、ワーファリンは用量調節が難しいし、相互作用のある薬がてんこ盛り。
ある意味、もっとも使いづらい薬のひとつ、とも言える。
昨年、この領域でプラザキサという新薬が発売された。
心房細動による脳卒中の予防に使える新薬としては、ワーファリン以来の
50年ぶり新薬。こちらは、相互作用も少なく、用量調節も簡単。
作用機序は微妙に異なるが、イグザレルトはプラザキサの次に出てきた
と言える。実は、プラザキサにはワーファリンにはなかった弱点があった。
ひとつには、1日2回服用になること。
もうひとつは、薬そのものの脆弱性だ。
プラザキサカプセルは、非常に湿気に弱いらしい。一包化は不可。
もちろん、脱カプセルなんざもってのほか。結果として、一包化している高齢者や、
嚥下困難な患者さんには非常につかいにくかった。
その点、イグザレルトは1日1回だし、錠剤だし。プラザキサよりも使いやすい。
ちょっと調べてみた感じでは、一包化も問題なさそうだ。(粉砕はまずいようだが)
.
プラザキサもイグザレルトも、効能はワーファリン以上、副作用は同等か
やや少なめ、といううたい文句になっているが、プラザキサは去年発売後に
副作用の報道が出たりした。
どうしても、一定の割合で出血性の副作用が発現するのは仕方ないのだろう。
安全性に関しては、ワーファリンと大差ない、と認識している。
ただ、ワーファリンに大量にある相互作用のある薬や食べ物を
気にしなくてよいのはありがたい。特に、納豆好きな人はワーファリンは
厳しかったと思う。(食べちゃダメ)
無理やり納豆コミでワーファリンの用量調節するような話も聞いたことがあるが、
納豆フィーバーでスーパーから納豆が消えた時に大変なことになった。(苦笑)
.
また、震災の時のチラーヂンのような事がおきないとも限らない。
単一の薬に頼りすぎるのは危険。
いざというときに代替薬が必要、という意味でも、複数の薬があるのはありがたい。
これも、医学、科学の進歩の結果なんだろう。
.
・・・と、ここまでが前フリだ。
この、医学の進歩のたまものであるイグザレルトであるが、
1日薬価が通常で530円してしまう。1ヶ月で薬価だけで15900円だ。
(プラザキサも、ほぼ同じ値段と思って間違いない。)
ワーファリンの場合は、量によるけれども、1mg錠の薬価が10円程度。
1日5錠としても、50円。新薬の10分の1ですんでしまう。
(ワーファリンは人によって服用量が異なるから一概には言えないが、
5mgだと平均よりやや多いくらい。最高で8mgまで見たことある)
1ヶ月で1500円。さすがに、古い薬だけあって安いわ。
薬ってのは、効果と値段が比例関係にないから、こういうことがおこる。
確かにいい薬なんだけど、値段10倍ってどうなの??
いや、これはイグザレルトが高いというよりは、
ワーファリンが安すぎるんだろうけど。
医学の進歩の結果として、前の薬よりもいい薬がどんどん開発される。
その結果として、薬代がはねあがってしまうことになる。
これすなわち、「医療費の高騰」という結果を招くことになる。
.
似たような話はいくらでもある。
たとえば、高血圧の薬だと、最近はARBというタイプの薬を使う医師が多い。
副作用も少なくて、副次的な効果も期待できたりして、いい薬なのは間違いない。
・・・でも、たとえばカルシウム拮抗薬というタイプの薬でも、
血圧を下げる作用は大差ない。
ACE阻害薬というタイプの薬なら、副作用が少し増えるかも知れないが、
効果は大差ないだろう。
ARBは、このあたりの薬の2倍くらいの値段だ。
いや、カルシウム拮抗薬やACE阻害薬ならジェネリックまで出てるから、
ジェネリックを使うと半額どころか、下手すれば10分の1くらいまで
値段を下げることができる。
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確か、アメリカでは保険ごとに使える薬の範囲が決まっていると思う。
保険のほうで、高い薬を避けて、安い薬を選ぶように圧力をかけている。
でも、国民皆保険の日本では、そういう圧力は少ない。
よく言えば、金持ちでも貧乏人でも大差ない、平等な医療が受けられる。
ただ、悪く言うとコスト感覚がなくなってしまう。
.
医師の側がコスト感覚を持ち込むのは、今の日本では難しいかも知れない。
でも、患者の側から訴えかけることはできるんじゃないだろうか?
仮に私が高血圧になったとして、ずっと服用するのであれば、
カルシウム拮抗薬や、ACE阻害薬のほうを使いたいと思う。
効果は少し劣るかも知れないけど、値段は1/3くらいにできるだろ。
コストパフォーマンスを考えると、どうだろうか?
これ、最終的には「医学はどこまで進歩するのか?」みたいな話になるのかも。
血圧の薬とか、まだ新しい薬って世の中に必要なのか??
対症療法ではない薬ができるのなら大歓迎だけどさ。w
たいがいの高血圧の患者さんは、今ある薬だけで十分に治療できないか?
クソ高い新薬と、それよりもわずかに効果が劣り値段ははるかに安い薬。
なんとかして、後者を使えるような環境を考えていくべきではないだろうか?
極論すれば、医学が進歩をやめれば、医療費の高騰は防げる。
進歩を続けるのであれば、コストパフォーマンスがよくなるような
仕組みを考えないと、日本の国民医療費は上がり続けるだろうな。
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コメント
おっしゃる通り この業界時々??な決まりごとあったりして やりづらいですね
投稿: すみぱん | 2012-05-11 08:45