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風邪薬の副作用で131人死亡!?

 タイトルのような報道が、つい最近あったようだ。
実は、お客さんから聞いて、急いで調べた。毎日新聞の記事らしい。

一部引用する。以下引用。

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風邪薬で副作用死>皮膚疾患が悪化、2年半で131人死亡

風邪薬などの副作用で起きる皮膚疾患
「スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)」と、その症状が悪化した
中毒性表皮壊死(えし)症で、今年1月までの2年半に全国で
131人が死亡したことが厚生労働省のまとめで分かった。

(中略)

厚労省の集計によると、09年8月~今年1月、製薬会社などから報告があった
SJSと中毒性表皮壊死症の副作用被害は1505人で、
うち8.7%の131人が死亡。
前回集計(05年10月~09年7月分)では2370人中239人が死亡していた。

(中略)

原因と推定される医薬品は抗てんかん剤や解熱鎮痛消炎剤、総合感冒剤など。
こうした医薬品を投与する医師は、初期症状の皮膚疾患に必ずしも精通して
おらず、診断が遅れる可能性がある。また、総合感冒剤などは市販薬も多く
症状が薬の影響と気付かない人も少なくない。

 引用終わり。(強調は引用者)

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 かなりショッキングな記事構成になっている。
結論から言えば、見出しがちょっとオーバー過ぎるんだが・・・。

 ちなみに、同じ内容を報じた日経の記事も引用してみる。

以下、一部引用

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 薬副作用の皮膚障害、2年半で131人死亡 厚労省まとめ

薬の副作用で起きる皮膚障害のうち、症状の重いスティーブンス・ジョンソン
症候群と中毒性表皮壊死(えし)症の死亡報告が、今年1月までの2年半で
131人に上ったことが、厚生労働省のまとめで28日までに分かった。

(中略)

09年8月から12年1月の製薬企業からの報告をまとめた。発症は1505人で、
このうち約57%は回復、軽快した。死亡の131人には、
専門家が因果関係は薄いと評価した事例も含む

 発症の原因と疑われる薬は抗てんかん薬と解熱鎮痛消炎薬、抗生物質が
それぞれ200例を超えた。薬局などで処方箋なしに買える
一般用医薬品の風邪薬も54例あった。

 引用終わり。(強調は引用者)

.

 同じ情報を元にしているはずなのに、毎日と日経では、かなり印象が違うな。
実は、この元情報をネット上で探していたんだけれども・・・

 たぶん、これ、というのを見つけたのでリンクはっておく。

http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_anzen/file/PMDSI290.pdf

これの9ページから13ページが、ほぼ同様の内容になっている。
平成21年8月から、平成24年1月までの副作用報告は、10ページにある。
でもこの内容って4月号なんだけどな・・・。

 ひょっとしたら、これのまだ元情報があるかも知れないけれども、
まぁ、情報源としては申し分ないし、見やすいからこれでいいと思う。

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 まず、スティーブンスジョンソン症候群(SJS)や、中毒性表皮壊死症(TEN)は、
多くの医薬品でおこる副作用であり、しかも原因、というか発生機序が不明、
と、非常にやっかいな問題である。
 さらに、死亡することも多く、失明などの後遺症が残ることも多い。
初期対応が遅れることが多々あるので、医療関係者だけではなく、
患者さんにも初期症状の情報を伝えておくことは必要だ
 この辺は、後でもう一度書く。

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 その前に、毎日の記事の批判をしておこう。
目的のためにセンセーショナルな見出しをつけるのはよくあることだと思うけど、
この見出しも、どうかと思うぞ。
 日経の方が、情報としては正確だ。(ただし、インパクトには欠けるが)

 一般用の風邪薬で2年半に131人死んだような印象を与えてしまっている。
実際は、全くそんなことはない。

 実際には、SJS,TENとして報告された副作用報告数であり、
しかも、専門家で因果関係を否定的とした報告も含む数字である。

普通に薬局で買える一般用医薬品での報告は、死亡例131例のうち3例だ。
過去のデータも合わせてみると、一般用医薬品に限れば
おおよそ、年間1例の死亡例が報告されているにすぎない

 毎日の見出しは、インパクトを与えることには成功しているけれども、
情報を正確に伝えているとは言いがたい。
もちろん、一般用の風邪薬も問題なんだけど、医療用の医薬品の方が
圧倒的に問題は多い訳だし。
私の印象では、SJSを起こさない、と言い切れる薬なんて一つもないぞ。
つまり、薬を使うことにより、必ず背負いこむリスクの一つだ。

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 SJSのもっともやっかいな点は、その発生頻度の低さだと思う。
めったにおこらないから、症例を検討するのも難しい。
めったにおこらないから、医療者の認識にのりにくく、
初期対応を誤ってしまうことも多い。

 SJSの初期症状として、

「高熱(38℃以上)」「目の充血」「めやに」
「まぶたの腫れ」「目が開けづらい」「くちびるや陰部のただれ」
「排尿・排便時の痛み」「のどの痛み」「皮ふの広い範囲が赤くなる」

がみられ、その症状が持続したり、急激に悪くなったりする。

 とある。

 原因となる薬剤は、抗てんかん薬や、消炎鎮痛剤、抗生物質が比較的多いが、
ありとあらゆる医薬品でおこりうる、と考えておいた方がよいと思う。

 早期に診断がつけば、それだけ回復する可能性が高くなる。

正直、そんな状態になれば薬剤師でできることはないので、
すぐに医師にかかってもらうことになるかな。
薬剤師にできるのは、事前の注意喚起くらいだろうか・・・。

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 発生頻度は著しく低いけれども、発生した場合は非常に深刻な問題になりえる
ので、医薬品のリスクとしては、それなりに高いと言える。
リスクのない薬なんて存在しない、と考えると、当たり前のことだけれども、
必要のない薬は、のまないにこしたことはない、な。

 もちろん、薬には相応のベネフィットもあるわけで、合わせて考える必要がある。
例えば、抗てんかん薬のSJSのリスクが高いからといって、
抗てんかん薬を服用しない、というのは、明らかに間違っている。
抗てんかん薬を服用するベネフィット(というか、服用しないリスク)の方が、
圧倒的に大きいのだから。

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 まぁ、今回の報道で私も(あるいは他の人も)、改めてSJSを認識しただろうから、
その意味では、毎日の記事は非常に役に立った、と言える。
・・・なんか悔しいが。(苦笑)

 

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コメント

はじめまして、森と申します。
知人のご主人がクローン病と診断されたそうです。
クローン病について調べるなかで、薬ってなんだろうと思うようになりました。
これからkittenさんの雑記帳で薬と物事に対する考察を学ばせて頂こうと思います。

投稿: 森 | 2013-03-25 12:06

>森さん

 コメントありがとうございます。
クローン病は大変な難病ではありますが、
薬によって、ある程度コントロールできる疾患、ですね。

 どの病気でも、根本治療は難しく、
対症療法にならざるを得ないんですが、
それでも、難病でも健常な人と近い生活を
少しでもおくれるよう、薬が助けになるんじゃないかと思います。

投稿: kitten | 2013-03-28 00:05

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