「脂肪の吸収を抑えるトクホ」
少し前に、サントリーの黒烏龍茶のCMが、消費者庁から注意を受けた?
というような報道があった。
あの、笑うセールスマンの「脂肪にドーン」というCMだ。
特に、アンタッチャブル山崎編は、確かに問題がないとは言えないだろう。
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同じように「脂肪の吸収を抑えるトクホ」として、
やっぱり少し前に話題になったのはメッツコーラ。
コーラとしては初のトクホということで話題になった。
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実際のところ、トクホでいう「脂肪の吸収を抑える」というのは、
どの程度の話なのか。(独)国立健康・栄養研究所のHPから、紹介してみる。
「トクホの上手な利用法」
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail1026.html
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上記サイトから、いくつか引用する。
以下、「効果的な利用法」より引用。
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食生活の乱れや、食事内容の不安の解消を目的としてトクホを利用しても、
期待する効果は得られません。
トクホは現在の食生活を改善するきっかけとして、
適切に利用することにより、一定の効果が得られるものといえます。
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引用終わり。(強調は引用者)
うん、これを読む限り、黒烏龍茶のCMはあまり好ましくないのは確実だな。
「食生活の乱れ」の解消を目的としてはいけない、と書いてある訳で。
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また、「食後の中性脂肪が上昇しにくい、または体脂肪がつきにくい食品」
についてのところからちょっと長めに引用すると・・
(以下引用)
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このトクホの有効性を確認する試験では、一般にトクホを含めた脂肪摂取量
を同年代の平均以下に制限した上で、一般的な製品とトクホを置き換えて結果
を得ています。
ある試験では、管理栄養士などの専門家から食生活や脂質摂取について
十分な指導を受けた上で、試験期間中の食事の脂質摂取量を総エネルギーの
23%に抑えています。
当時の国民栄養調査 によると、試験対象者と同年代の平均脂質摂取量は
27%でした。つまり脂質摂取量を制限した条件で試験が行われたことが
わかります。
トクホであっても脂質摂取量を制限しなければ効果は得られないのです。
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引用終わり。(強調は引用者)
直接、どの商品がどう、とは書いていないが、
まぁ、そういう試験(栄養指導・食事制限付きの)
が行われていることもある、ということだ。
そんなのアリ?と思うけれども、
そもそもが「バランスのよい食事を取った上で」使うのがトクホなんだから、
そりゃ、そういう試験でも問題ないだろう。
問題は、食生活の乱れを是とするCMの方であって。
やや、トクホに厳し目の内容になっているけれども、これは
国立栄養・健康研究所のスタンス、と言えなくもない。
この辺、私も過去に記事にしたことがある。
「健康食品の正しい利用法」(2011.6.9)
http://tukutteha-mitamonono.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-38db.html
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実際のところ、どれくらいの効果があるのか?
ちゃんと論文や文献を調べられないので分からない。
ただ、薬剤師から見るとグラフの意味がそもそも分からないとか、
これ、誤解を誘っているんじゃないの?みたいなのもある。
一応、黒烏龍茶を例にあげてみる。
http://www.suntory.co.jp/softdrink/kuro-oolong/lesson/lesson3/page1.html
ここでは、中性脂肪の上昇抑制効果が書かれている。
食後の中性脂肪の上昇が20%減少、というデータがグラフで描かれている。
このグラフでよく分からない点は2つある。
1つは、「なんで5時間後までしかグラフがないの?」というところ。
実は、5時間以降はしっかり吸収されて、最終的に変わらんのじゃない?
という疑いが残る。
もう一つ、もっと根本的な疑問。
食後の血中脂肪増加量を測ることに意味はあるのか??
例えば、血糖値であれば、食後過血糖という状態はよくないと言われ、
それこそトクホでも「血糖値の上昇を遅らせる」みたいなものはある。
もちろん、医薬品でも存在する。
でも、それを脂肪に適用していいんだろうか?
何日か連続で黒烏龍茶を飲んでもらって、「日」とか「週」単位で
中性脂肪値をグラフにするのが、普通じゃないかな?
なんで「時間」単位なのかが、わからない。
「時間」単位の中性脂肪値の増減に、医学的意味があるのか、謎だ。
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次の例。
http://www.suntory.co.jp/softdrink/kuro-oolong/lesson/lesson3/page2.html
ここでは、脂肪の排出促進効果ということで、
「脂肪総排出量」が2倍になった、というデータが示されている。
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脂肪の排出量が増えている、ということは、
それだけ吸収されていない、ということで・・・まぁいいとしよう。
ここでポイントになるのは「2倍」にだまされちゃいけないってこと。
どれだけの脂肪分を摂取したのか、その情報がなければ意味はない。
例えば、極端な例をあげてみる。
摂取した脂肪のうち、99%は吸収されて、1%排出されます。
この状態で、「排出量が2倍!」になったらどう?
摂取した脂肪のうち、98%吸収されて、2%排出された。
これだって、「排出量2倍」だよ。
でも、この状態は、「脂肪吸収量が1%減少した」と言う方が、
より実態を表している、ということが分かると思う。
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まぁ、実際にどういう条件で実験したのかは不明だからわからない。
脂肪吸収量99%→98%ってのは、さすがに極端だから、
たぶんそんなことはないだろう、と思うけど、
この実験、あえて高脂肪食を与えるということをやっているので、
なんとも言えないところがあるな。
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念のため。
黒烏龍茶に効果がない、と言っている訳ではない。
むしろ、ちゃんと実験しているんだから、効果はあると思う。
ただ、「その効果に、医学的な意味はあるの?」という疑問や、
「そのグラフは、どうやって解釈すればいいの?」という疑問が残る。
はっきり書くと、本来の効果以上に「効果がある」と錯覚させるような
グラフの使い方をしているなぁ、、ということ。
これは、別にトクホに限ったことじゃなく、他の商品でもあるし、
医薬品だってそういうことは多々ある。
プレゼンテーションの技術の一つとも言えるだろう。
別にウソついている訳じゃないからね。騙している訳じゃない。
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さて、冒頭の話に戻る。
実は、この「黒烏龍茶」の報道、誤報じゃないか?という話がある。
松永和紀さんが、記事を書いている。
松永さんがどういう人かは説明すると長くなるので省略するけど、
基本的に信頼できる人だ、と私は思っている。
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「消費者庁は、改善を求めていない~黒烏龍茶をめぐる誤報」(foocom.net)
http://www.foocom.net/column/editor/7115/
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なんじゃそりゃ、というところ。
サントリーのCMが微妙なものであることは確かだけど、
それは「表現の自由」の範囲内ではないか?という話。
まぁ、CMをどのように受け止めるか、なんて、
100人いれば100通りあってもおかしくないから、
あんまり細かい規制をいれても・・・ってことかな。
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