脂質異常症治療薬「エパデール」がスイッチOTCに?
仕事の話。
脂質代謝異常症の治療薬である、持田製薬の「エパデール」が、
ついにスイッチOTCされるらしい。
スイッチOTCとは、病院や薬局(医師の処方が必要)でしかもらえない
医療用医薬品を、医師の処方なしで、薬局やドラッグストアで購入できる
一般用医薬品(OTC)として、販売可能にすること。
今までも、ガスター、アレジオン、ロキソニンなどがスイッチされているが、
今度、承認されたのは、全く新しい分野だ。
脂質異常症(昔でいう高脂血症)の薬が、処方箋なしで購入できるようになる。
.
脂質代謝異常症に対する一般用医薬品って、
正直なところ、医療用ではとっくに現役引退しているような
さほど効果が期待できない成分しかなかった。
一つ例をあげると、コレストン・・・かな。私も記事を書いてる。
「コレステロールを下げる市販薬」(2009.8.27)
http://tukutteha-mitamonono.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/post-e9ec.html
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そこにいくと、エパデール。成分名はイコサペント酸エチル(EPA)は、
医療用医薬品として、今でもよく処方されている、いわば
現役バリバリ、の薬。(持田製薬の稼ぎ頭だ)
EPA製剤は、長いこと「スイッチOTC」化したいという話だった。
(上記記事の最後にも、ちょろっと書いている。)
それが、医師の方から、反対意見がでていたのでストップがかかっていた。
曰く、
「脂質異常症には糖尿病や脂肪肝などが隠れている場合があり、
それらの早期発見を妨げる可能性がある」
ということらしい。なるほど。
で、医師の懸念に対応するために色々と条件がつけられている。
一定数の症例データが蓄積されるまで、適正仕様調査を実施する、とか、
3年間の安全性に関する製造販売後調査を行う、とか。
また、効能、効果もかなり狭められている。
「健康診断等で指摘された、境界領域の中性脂肪値の改善」
って、健康診断のデータ見せなきゃ購入できないってことか?(汗)
具体的な中性脂肪の値は、150~300mg/dlらしい。
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おっと、一つ補足。
脂質異常症、というと、「コレステロールが高い」人というイメージだけど、
このEPA製剤は、コレステロールよりは、中性脂肪が高めの人に使う。
血液検査をすれば、コレステロールも中性脂肪もちゃんと出てるはずなので、
その辺で確認して欲しい。
もし、コレステロールの方に問題があるのであれば、素直に病院を受診するべき。
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副作用は・・・それほど考えにくい。っていうのは、EPAってのは、いわゆる、
「魚の油」だから。(専門的にはω3脂肪酸という。)
医療用医薬品であるエパデールは高純度なものだけれども、
普通のEPAであれば、実はサプリメントでも売られている。
その辺があって、スイッチOTC化に積極的だったんだろう。
さすがに、コレステロールを下げる「スタチン系」は、副作用の問題もあって、
そうそうスイッチOTCにするわけにはいかないだろう。
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気になっているのは、一つには販売方法。
実際に健康診断や、血液検査の結果を見せてもらうのかなぁ?
それにしても、結果(例えば3ヵ月後)の確認にはやっぱり血液検査が必要だと思う。
血液検査するために医師にかかるのであれば、医療用でもらった方が安くね?
中性脂肪の値が高いといっても、それほどでもなくて、
医師から、「食事や運動に気を使いなさい」と言われて薬が出なかった時だと、
EPAを薬局で買ってもいいかも知れないけど・・・、
それにしたって、食事や運動に気を使うほうが先じゃないのか?w
また、個人的には「健康診断前に購入して、中性脂肪値を下げる」みたいな
目的に使う人が出てくるんじゃないか?と予想する。
とりあえず、健康診断だけしのいでしまおう、という不届きモノだ。
気持ちはわかるけど、全く意味がないのでやめておいた方がいいよね、これ。
(身体の異常は発見してもらうべきなのに、誤魔化してどうするよ。w)
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もう一つ気になっているのは、値段設定だ。
EPA製剤、医療用のエパデールはかなり高価な薬である。
1日1800mg(一般的な医療用の成分量)で、261円。
これって、2,3日のんですぐに効くような薬じゃないから、
例えば1ヶ月服用するとして、薬価でも7830円だ。
ジェネリック医薬品ならもう少し安くできるけれども、
そもそもEPA製剤のジェネリック医薬品は、品薄状態が続いている。
噂によると、「原料の価格が高騰しているため」らしい。
そんな状態で安く作れるとは思えないなぁ。
でも、あんまり高値にするとそもそも買ってくれないと思う。
1ヶ月で8000円もする薬を買うか?
健康保険なら、3割負担でいいんだから。
診察代とか、他にも色々な形でお金はかかるけれども、
どうやったって医師に処方してもらうほうが圧倒的に安いと思うぞ。
他の薬では、例えばスイッチOTCになったロキソニンSは、
薬価の2倍以上の値段するけど、医師にかかる診察代などを考えると、
薬局で買ったほうが安いこともありえる。
とはいえ、2週間以上服用を続けるのであれば、医師にかかった方が安いけど。
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EPAは、病院と価格競争をしてまったく勝てる見込みはない。
それも、「病院に行ったのより、少し高めの値段設定」でもなくて、
圧倒的に高い値段になってしまうと思われる。
この値段設定は、難しいんじゃないかなぁ・・・。
値段は高い、気軽に使えない、効果の判定には血液検査が必要。
スイッチOTC化されたとはいえ、色々な「縛り」があるから、
そうそううまく軌道にのることはないんじゃないか、と思う。
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ただ、薬剤師としては歓迎したい話だ。
保険に頼らない、セルフメディケーションの流れの中で、
信頼に値する医薬品がスイッチOTCされるんだから。
今後の、薬剤師の果たすべき役割まで変えてしまう可能性をもっている薬だろう。
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コメント
エパデールがスイッチングOTSですか・・・
エパデールには抗凝固作用があるため、勤務先では胃カメラなど内視鏡検査前に、3~5日程度の内服中断してもらってますけどね・・・
処方薬だと他院で出ていてもお薬手帳などでわかるケースが多いのですが、市販薬だと、なんで脂肪の薬が胃カメラに影響するの?って考えて医師に言わないケースも多いでしょうから、気になります。
記事を拝読する限り、販売価格も下げにくそうですし、あまり普及しないかもしれませんから、それほど心配しなくてよいかもしれませんが。
投稿: Qカメ | 2012-11-11 08:07
OTC購入者には今まで以上に積極的に指導、情報提供を行う・・・
と思いますので、なんとかするんじゃないかと思います。
少なくとも、お薬手帳もってる人には記載しないとマズイですよね。
投稿: kitten | 2012-11-12 15:57
エパデールSって粉薬ですよね・・・。粉薬を好んで8000円もするのを購入するんでしょうか?エパデール普段から服用しており、例えば1日分病院からもらってるけど足りなくなってしまった理由で購入ならまあいいかもしれませんが。
投稿: のぞみ | 2012-11-27 11:25
>のぞみさん
コメントありがとうございます。
OTCのエパデールがどんな剤形になるのか、まだ情報をつかんでいません。
医療用では、カプセルもありますしね。
記事にも書きましたけど、
普通に考えると高すぎて売れないと思うんですよね、これ。
医療用からのスイッチ、というよりは、
「高価な健康食品の代替」という立ち位置で考えるべきなのかも。
投稿: kitten | 2012-11-28 00:34