大気を変える錬金術の代償は?
先週、「大気を変える錬金術」の本の感想を書いた。
http://tukutteha-mitamonono.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-5f79.html
今週は、本の内容からは少し離れる。
ハーバー・ボッシュ法によるアンモニア合成の結果、どうなったか、
また、今後どうなるのか?という話。
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ハーバーとボッシュによる、空気中の窒素からアンモニアを合成する方法。
これは、「空気をパンに変える方法」とも言われるくらいに
革新的なできごとだ。
ごくありきたりにある空気の窒素から、肥料の元であるアンモニアを合成する。
食糧事情は劇的に改善し、何十億もの人が暮らしていけるようになった。
この方法がなければ、そもそも世界の人口が70億になることなんてなかっただろう。
じゃぁ、そんな魔法のような技術に、何の問題もなかったのか?
まだはっきりと見えている訳ではないが、実はこれも大変な問題を抱えている
可能性を秘めている。
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少し視点を変えて、炭素についてみてみよう。
産業革命の結果、特に化石燃料を使用することによって、
大気中の二酸化炭素濃度が増加して、結果として地球温暖化につながっている。
原子ってのは、よっぽどのことがない限り変わったりしない、増えも減りもしない。
地球上の炭素原子の数は、ほぼ一定と言ってよいだろう。
ってことは、大気中の二酸化炭素の「炭素原子」の大本は、
地中の化石燃料の「炭素原子」ということになる。
地球温暖化を防ぐ方法としてもっとも単純なのは、化石燃料を使わないことだ。
そうすれば、これ以上二酸化炭素が増えることはないからね。
まぁ、それができれば苦労はないんだけど。
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さて、窒素原子についても同じことが言える。
空気中の窒素原子を、ハーバー、ボッシュ法でアンモニア、固定窒素に変える。
これって、ほぼ不可逆変化だ。
二酸化炭素が化石燃料に戻ることはないように、
一度できたアンモニア(あるいはそこから派生する硝酸塩などの固定窒素)は、
元の空気中の窒素分子に戻ることは、ほぼありえない。
そうなると結果として、環境中の固定窒素の量はどんどん増えていくことになる。
それがどのような悪影響をもたらすのか、まだはっきりとはわかっていない。
まだ大丈夫だと思うが、固定窒素は今後増える一方で減ることは考えられない。
これは、二酸化炭素と同じ状況である、とも言える。
そうすると、例えば地球温暖化のような、深刻な環境問題に発展する可能性は
十分にありえるんじゃないかと思う。
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現時点でも、野菜に含まれる硝酸塩(アンモニアが酸化されたものだ)は、
どんどん多くなっていることが分かっている。
どうにかして減らせないか、という対策も講じられつつある。
土壌、環境中に硝酸塩が増えていることで、生態系にも変化はあるだろうし・・・。
できれば、窒素も循環させるのが望ましいだろう。
肥料として使われた窒素が、穀物となり、
家畜の餌となり、排泄物から堆肥をつくって肥料に戻せば・・・
新たに投入する窒素の量を減らすことはできるだろう。
ところが、日本ではこれがなかなかうまくいかない。
日本でも畜産は行われているが、飼料となる穀物は海外のものが多い。
穀物(主にとうもろこし)の輸入、という形で固定窒素が国内にたまっていく。
そしてこの固定窒素を肥料にしたとしても、使いきれるだけの農地がない。
かといって、そんなもん輸出できる訳もない。(汗)
どう考えても輸送コストの方が高くつく。だいたい、肥料なんて
ハーバー・ボッシュ法があれば、簡単に安く手に入るんだから。
堆肥にこだわる必要は・・・ないよなぁ。
地球規模でも問題なんだけれども、
それに、島国でありながら大量に穀物を輸入している、という日本では、
さらに問題が大きくなる可能性はある。
日本という国の農業自体を見直せば、まだいいのかも知れないけど・・・。
それって、とても難しくて、最適解が見つけにくいよなぁ。
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