今回の記事は、先発品と後発品の標準製剤の薬物動態データを比べた、
前回の記事の補足と追記である。
前回の記事はこちら。
「これ、本当に同じ薬か?薬物動態のデータに驚愕」(2012/11/22)
http://tukutteha-mitamonono.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-811b.html
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後発品のデータを見比べた訳ではなくて、
先発品の薬物動態のデータと、後発品の試験に使われた「標準製剤」のデータで、
どれくらいばらつきがあるか、を調べた。
結果、先発と後発の差なんて問題にならないほど個人差(?)があることが
明らかになった。今までの議論って、いったい何?と思うほどの。
もっとも、私の転記ミスなんかもあったんだけどね。(汗)
当該記事は11/24時点で追記もしているので、見ていない人は確認して欲しい。
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さて、前回のデータの問題点は大きく目に付くところで3つあった。
1つ目。
先発品の試験データのCmax、AUCが、後発品試験データ(の先発品データ)より
圧倒的に大きい。具体的には、Cmaxが1.5倍、AUCで2倍以上。
2つ目。
T1/2が、短いもので5.6時間、長いもので9.2時間とばらつきが大きい。
3つ目。
Tmaxに数字にばらつきが大きい。
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さて、3つ目のTmaxの数字は、実は私が書き間違えていただけだった。(汗)
実際は、2時間ちょいで、ほぼ問題なかった。
今回の補足は、1つ目のCmaxについて。
アレジオン錠20mgのインタビューフォームをリンクしておく。
http://www.bij-kusuri.jp/products/attach/pdf/al_t10_if.pdf
19pから、薬物動態の項目になる。
(1)の成人への単回投与のデータが、Cmax36.4ng/mlになっている。
ここで注目してほしいのは、(2)の反復投与のグラフ。
(2)の反復投与試験はグラフだけで、結論として「蓄積傾向はなし」で、
具体的なパラメータは数字としては見えないけれども、
・・・このグラフを見る限り、Cmaxはせいぜい25ng/ml程度だ。
また、(5)の食事の影響をみるグラフにも注目。
ここでも数字はなくて、グラフだけで読み取るしかないが、
空腹時のデータで、Cmaxは25ng/mlに届いていないのが分かる。
試験人数は、(1)が6人、(2)も6人。(5)は16人だ。
つまり、アレジオン20mgのインタビューフォームからだけでも、
添付文書上のCmax36.4±6.8ってのは、相当大きな値だと分かる。
Cmaxがこれだけ大きければ、AUCが大きくなるのも当然だ。
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ようするに、アレジオンの添付文書上のパラメータ、
CmaxやAUCは、(意図的に?)かなり高めの数値が出てしまった
単回投与試験をそのまま採用している、ってことだろう。
これが、1つ目の謎の裏事情・・・だと思う。
まぁ、それくらいの個人差はあるよ、ってことでもあるが。
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実際に妥当かどうか調べるためには・・・
各後発品の「生物学的同等性試験」からデータを引っ張ってきて、
全部まとめて統計処理してみる、という手はあると思う。
学術的には、メタアナリシスってやつかな。
これは、さすがに本気でやる気はしないけれども・・・
ぱっと見た感じでは、アレジオン錠の単回投与試験のみ、
相当な「ハズレ値」になっている印象を受けるので、
全体的に他のデータと合わせると、まぁ「ありえる」範囲なんだと思う。
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最後に残った謎。T1/2のばらつきについて。
これは、本当にそれくらいの個人差がある、ってのが正しいんじゃないかな?
Tmaxはそれほど差がないところから考えると、
吸収に関しての個人差はあまりないけれども、
代謝、排泄に関してはかなりの個人差が出る、ということだろう。
アレジオンはほとんど代謝を受けずに腎から排泄される。
ってことは、人間の腎機能ってのはそれくらいの個人差があるってことか。
吸収の個人差よりも、代謝、排泄の個人差が大きいってのは・・・
感覚的にも納得できるところではある。
代謝されないってことは、初回通過効果はほとんどないだろうし。
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さて、こっから先はオマケ。
アレジオンのデータが派手にばらついているのは分かった。
当然、他の薬はどーなんだ?となるわな。
そこで、追加で2つほど調べてみた。
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一つ目はロキソニン。
データは先発と、後発3種とった。
ロキソニン錠60mg
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1149019C1149_1_03/
ロキソプロフェン錠60mg「EMEC」
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1149019F1480_1_04/
ロキソマリン錠60mg
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1149019F1382_1_07/
ロブ錠60mg
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1149019F1544_1_03/
Cmax Tmax AUC T1/2
ロキソニン錠60mg 5.04±0.27 0.45±0.03 1.22±0.07
(n=16)
ロキソプロフェン錠60mgEMEC 5.47±2.10 0.46±0.17 8.57±1.10 1.48±0.22
標準製剤 5.43±1.68 0.48±0.27 8.29±1.46 1.50±0.26
(n=14)
ロキソマリン錠60mg 6.51±1.52 0.48±0.12 9.51±1.97 1.12±0.23
標準製剤 6.47±1.46 0.39±0.19 9.55±1.58 1.13±0.13
(n=14)
ロブ錠60mg 6.71±1.98 0.5±0.2 11.01±3.09 1.4±0.3
標準製剤 6.98±1.93 0.6±0.3 11.17±3.14 1.4±0.2
(n=14)
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ロキソニンは、添付文書にAUCが入ってなかったため省略。
(厳密には活性代謝物なんかの問題があるので、入れなかったんだろう。)
データを見ると、ある程度のばらつきはあるけれども、
アレジオンに比べるとよっぽど綺麗なデータ、といえると思う。
試験人数が後発品よりも先発の方が多いところもポイント。
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続いて、血圧の薬であるところのノルバスク。
実は、アムロジンとノルバスクを比べてやろう、と思ったんだけど、
この二つの添付文書は同じデータだったので。w
(同じ試験から引用したんだろう。)
ノルバスク錠5mg
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2171022F1029_2_06/
アムロジピン錠5mg「あすか」
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2171022F1193_2_03/
アムロジピン錠5mg「ケミファ」
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2171022F1266_1_08/
アムロジピン錠5mg「サワイ」
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2171022F1282_1_08/
Cmax Tmax AUC T1/2
ノルバスク錠5mg 2.81±0.40 5.5±1.4 84.8±15.0 35.4±7.4
(n=23)
アムロジピン錠5mg「あすか」 3.00±0.58 6.9±1.2 104.0±20.1 45.4±9.4
標準製剤 3.07±0.46 7.0±0.9 106.6±19.6 42.6±10.6
(n=12)
アムロジピン錠5mg「ケミファ」 2.28±0.62 7.5±1.6 88.9±27.2 43.8±8.0
標準製剤 2.12±0.37 7.5±1.7 81.3±16.8 45.7±13.8
(n=12)
アムロジピン錠5mg「サワイ」 2.79±0.55 6.4±0.5 94.6±18.3 35.7±4.9
標準製剤 2.66±0.53 6.3±0.5 90.1±16.4 36.5±5.0
(n=9)
と、このデータも先発品が一番試験人数が多くて23人。
後発品の方が少なくなっている。
さすがにロキソニンよりはばらつきが大きいけれども・・・
今度は逆に、数字が大きすぎて気にならないなぁ。w
・・・というか、アレジオンのショックが大きすぎて、感覚がマヒしてるのかも。
最初にこれで調べていたら、これでもバラツキが大きい、と感じるかな?
正直、アレジオンほどの驚きはない。
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どれを調べてみてもわかることは、データ上では、
「先発と後発の差よりも、個人差の方が大きい」と言うことだろう。
とりあえず、調査はこれで打ち止めにする。
また、面白いデータを見つければ記事にするかもしれないけれども。
まぁ、なんだ。薬物動態のパラメータとにらめっこして、
どこのメーカーの後発品にするかを考える、なんてことは、
全くの時間の無駄だ、とわかったことが一番の収穫だと思う。
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by 薬剤師ブログタイムズ
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