これ、本当に同じ薬か?薬物動態のデータに驚愕
(11/24 追記。一部記事を修正しました。やっぱりミスがありました。)
薬剤師4コマ劇場さんで、ジェネリック医薬品に関する記事が続いている。
勉強になって、面白い。
私の意見は、先発品と後発品は、添加物など細かなところで差があり、
まったく同じモノとは言えない。
ただし、先発と後発の差は、薬の効き目の個人差よりも小さいので、
さほど気にしなくてよい、というもの。
ロキソニンとロブ(ロキソニンの後発品)の差よりも、
Aさんへのロキソニンの効き方とBさんへのロキソニンの効き方の差、
いわゆる個人差の方が大きいから、先発と後発の差なんて
誤差範囲におさまるんじゃないかなぁ、と。
.
さて、生物学的同等性試験についての記事があった。
「考・ジェネリック・・・生物学的同等性試験について」
http://pharmacymanga.blog.fc2.com/blog-entry-168.html
コメント欄で、薬物動態の話になった。
たかだか10数人の生物学的同等性試験で問題ないのか?って言われるんじゃない?
というomagarikunさんの意見に対して、私は
「先発品の薬物動態試験だって、せいぜい10人やそこらでしょ」と書いた。
(念のため。omagarikunさんは否定論者ではないです。
否定派はそういう意見を言うんじゃないか、と言われているだけ。)
それに対して、senzyuさんは、
本来、後発品の薬物動態が異なるのは、吸収の部分だけ、
つまり、CmaxやAUCだけで、T1/2(血中半減期)なんかは理論上同じになるはず。
でも、実際のところT1/2のばらつきがかなり大きい、つまり、
個人差が結構あるんだから、細かなCmaxのデータなんか比べられる訳ない、
と書いた。
この意見は、すごく説得力があると思う。
血中半減期なんか、先発と後発で変化する方がおかしいんだから。
.
で、実際にデータがどうなっているのか調べてみた。
調べたのは、以前にデータを見て「?」と思った記憶のあるアレジオン錠20mg。
後発品として、アルピード錠20mg、アレルオフ錠20mgを選んだ。
これは単に、うちの薬局で採用している、というだけの理由だ。
アレジオン錠20mgは、添付文書では情報が足りなかったので
インタビューフォームを参照した。
後発品2種は、添付文書に「生物学的同等性試験」のデータが書いてある。
生物学的同等性試験では、後発品と、「標準製剤」を交互に服用して、
その血中濃度の動きを見る。(この辺の話は、るるー主さんのマンガが分かりやすい。)
今回の場合の「標準製剤」は、当然先発品、アレジオン錠20mgのはずだ。
そこで、アルピード、アレルオフ、それぞれの「生物学的同等性試験」での、
「標準製剤」(つまり、アレジオン)のデータも一緒に抜き出して並べてみた。
データは、血中最高濃度Cmax(ng/ml)、最高血中濃度に達する時間Tmax(h)
吸収され利用された総薬物量AUC(ng・h/mL)、血中半減期T1/2(h)
後発品は小数点以下2位まで表記されていたものもあったが、
先発に合わせて小数第2位四捨五入した。
データ元は以下の通り
アレジオン錠添付文書(リンクからインタビューフォームも見れる。)
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4490014F1025_1_09/
アルピード錠添付文書
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4490014F1050_1_08/
アレルオフ錠添付文書
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4490014F1084_1_10/
で、表にまとめてみると
Cmax Tmax AUC T1/2
アレジオン錠20mg 36.4±6.8 1.9±1.4 467.7±122.9 9.2±1.7
アルピード錠20mg 21.4±7.5 2.2±0.9 188.8±63.4 5.6±1.8
標準製剤 20.3±8.1 2.7±1.0 183.2±69.3 5.6±1.5
アレルオフ錠20mg 20.9±7.8 2.3±0.8 194.7±68.4 9.0±2.6
標準製剤 20.7±6.6 2.2±1.4 196.2±48.9 9.0±2.6
.
・・・これ、本当に同じ薬か???
調べたかったのは、アレジオンとそのジェネリック医薬品で、
どれくらい薬物動態のパラメータが違うか、だったんだけど・・・。
調べてみた結果わかったのは、もっと衝撃的な事実だ。
色を青にした、「標準製剤」って、アレジオン錠20mgのはず。
つまり、青色の3つのデータは、全て同じメーカーの同じ錠剤だ。
ジェネリックのデータがどうこう言う前に、
先発品であるアレジオン錠20mgのデータのバラツキが半端ないぞ。.
ひょっとしたらとんでもない間違いをやらかしているかも知れないので、
ミスに気づいた人がいれば指摘してください。
(11/24 追記、やっぱりミスがありました。表を一部修正しています。
アルピードと標準製剤のTmaxの数字がT1/2の数字になってました。
うささん、ご指摘ありがとうございます。)
.
確かに、生物学的同等性試験、つまり、後発品と標準製剤のデータは
非常に似ている。というか、似すぎていてかえって不気味に見える。w
.
試験人数(n=)は、先発品が最も少なくてたったの6人だ。
後発品は、それぞれ19人、20人で試験しているのにね。
実際、もっとも怪しいデータは、アレジオン錠(先発品)のデータだ。
この6人、かなり効果が強く出すぎているんじゃないのか?(汗)
CmaxとAUCの大きさが群を抜いているぞ。
TmaxやT1/2の数字では、アルピード(の試験)だけがぽつんと外れている。
これもちょっと信じがたい離れ方じゃないだろうか。
この世界では、これくらい普通なの???
AUCは同じようなもんだけど、血中濃度の立ち上がりが遅くて、半減期も短い。
.
このデータが全て正しいとするならば、
アレジオン、アルピード、アレルオフ、生物学的には全て同等である。
ただ、それぞれの試験に参加した人たちの間の個人差が非常に激しい。
それも、集団レベルで。
アレジオンの試験参加者はものすごく優秀で、目いっぱい薬を吸収しているし、アルピードの試験参加者は、血中濃度の立ち上がりが異様に遅い。
(試験は絶食条件のはずだけど、どっかで隠れてなんか食べたんじゃないか?w)
(追記・アルピードのTmaxは単に私の転記ミスでした。お詫びします。)
他のアレジオン後発品も眺めてみたが・・・
Tmaxは2時間前後、T1/2は7時間前後の結果が多いように思う。
.
うーん・・・添付文書の薬物動態のデータがどれほどあてにならないかが
よくわかる結果となってしまった。
今まで結構あてにしていたんだけどなぁ・・・。
個人差の大きさ、なめんなよ、ってことか。
この結果はちょっとショックだったなぁ。
つーか、こんだけ個人差あるのに、
薬物動態の試験人数、たった6人とかでいいのかよ・・・。
.
11/24 追記。
いくつかミスがあったので修正しています。申し訳ありませんでした。
ミスのあったところは、アルピードと標準製剤のTmaxのところです。
当初、5.6hという表記になっていましたが、これは間違いでした。
正しくは、2.2h/2.7hでした。
また、アレジオンの試験人数も誤りがありました。
5人と書いていましたが、6人でした。
謹んでお詫びいたします。
.
ただ、記事全体としては、それでもやっぱり驚愕の結果であることに
違いはないと思いますので、このままアップし続けます。
(驚愕度合いは1~2割くらい減りましたけどね。汗)
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コメント
4コマからとんできました。
すっごいおもしろかったです!
kittenとはきっとおいしいお酒が呑めそうです。
これはすごい。
このネタ…どこかで誰かにしゃべります。
まとめていただいてありがとうございます。
投稿: senzyu | 2012-11-22 01:31
>senzyuさん
コメントありがとうございます。
調べてみてびっくり、というネタになったんですが、
元はといえば、るるー主さんの4コマと、
それについたsenzyuさんのコメントが調査のきっかけです。
ありがとうございます。w
実際、これくらいの個人差ってアリなんでしょうか?
メーカーさんの意見を聞いてみたいところです。
(ちなみに、このブログはurlをはったコメントは、
スパムコメント防止のため承認制になってます。
コメントが反映されるまで時間かかりますが、
ご了承ください。)
投稿: kitten | 2012-11-22 16:46
分かりやすい説明ありがとうございます\(^o^)/
ちなみにこのデータは・・・(汗)
アレジオンでの知識だとTmaxは2時間くらい
一方アルピードだとTmaxは5.6時間・・・
ちゃんと読みとる力がないとジェネリックは効き始めるまでに
時間がかかるっていう意見がでてきてしまうんですね~
ていうか薬物動態のグラフ、あんまり意味ないってことですかね?
(実際あまり見ないけどw)
類似薬を少人数でだしたデータ見比べて、こっちのほうが~
とかも案外医療者の自己満足に過ぎなかったりして(ーー;)
投稿: るるー主 | 2012-11-22 23:34
衝撃的です(汗)
コメントにすると長文になってしまいそうなので、私のサイトで記事にしてしまいました。
記事のなかで、kittenさんのサイトと今回の記事、リンクをはっちゃいました。
ご迷惑であればはずしますのでご連絡くださ~い。
投稿: 薬剤師りく | 2012-11-23 09:19
アルピード錠20mg(と、その下の標準製剤)のTmaxが、T1/2の数値になっちゃってますよ。実際の数値を見ると、Tmaxに関してはさほど乖離は無さそうです。
ただ、AUCとT1/2は謎なままですね…。他の薬も調べてみたくなりますね~。
投稿: うさ | 2012-11-24 00:31
>うささん
ご指摘ありがとうございました。
単純に転記ミスしていたようです。
これで謎は一つ解けました。(苦笑)
AUCとCmaxに関しては、書いてないネタを少しもってます。
この辺は、後日、補足としてもう少しアップする予定です。
T1/2は・・・本気で謎のままです・・・。
投稿: kitten | 2012-11-24 07:44
>るるー主さん
薬物動態のパラメータみてどう、っていうのは、
薬剤師の自己満足にすぎない・・・のかも知れません。
だいたい、たいていの薬は10mg、20mgとか
キリのいい数字の規格がほとんどですよね。
そこらへんがすごく「大雑把」なのは、
所詮、個人差が大きいから微調節しても意味がないから、
ってことなのかも知れません。
もっとも、↑のとおり記載ミスがありましたんで、
Tmaxについては謎が解けてしまったんですが。(苦笑)
>薬剤師りくさん
わざわざ記事書いていただいて感謝します。
そもそも、この記事自体、るるー主さんとこの
コメント用に調査したものが、
あまりにも長すぎるので記事になっちゃったものです。w
ちょっとミスがあったんであれなんですけど・・・。(汗)
この記事の補足記事は、月曜日にアップする予定です。
もう一つ、二つくらい、後発薬を調べてみようかな、と思います。
やり始めるとキリがなさそうですが。
個人的には、アレジオンだけ特別じゃないかな?
と予想してます。果たしてどんなもんでしょうか。
投稿: kitten | 2012-11-24 18:08
kittenさん、呼び捨てにしてました!
タイプミスに今気づきました。すみません~。
大変失礼いたしました!
投稿: senzyu | 2012-11-25 01:51
なんだか、気になったのでコメントさせていただきます。後発品は同じ被験者でクロスオーバー試験をしていますので、バラバラの比較的ですと個人差の大きさが今回のようにでてしまいますので、あまり意味がないかと思うのですが。
投稿: 通りすがり | 2012-11-25 17:38
>senzyuさん
あぁ、気にしないでください。
こっちもスルーしてましたんで。w
>通りすがりさん
コメントありがとうございます。
基本的には、おっしゃっている通りです。
今回の記事の意図は、「個人差の大きさ」を分かりやすく
示すことにあります。
個人差があることは知っていても、添付文書上で
AUC2倍以上とか、t1/2が6割しかない、とか
それも統計処理した後の数字でそれだけ違うってのは
ちょっとショックだったので。
投稿: kitten | 2012-11-26 07:35
さらに、補足とおまけを記事にしました。
http://tukutteha-mitamonono.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-c785.html
投稿: kitten | 2012-11-26 07:36
後発メーカーの研究職をしている者です。
私は部門が違うため少し大雑把な説明になりますが、症例数は基本的に一度試験をして同等がとれるような人数を統計などで計算します。ですので、吸収しやすい、しにくいなど有効成分によって試験する人数も異なってきます。
ご参考までにー!
投稿: けんきゅー | 2017-05-31 12:44
>けんきゅーさん
コメントありがとうございます。
んー、生物学的同等性が認められそうな人数で試験する、
ってことですかね。メーカーとしては当然ですね。
やってみたけど同等じゃなかった、なんて商品は
闇に葬られるからわからないでしょうし。w
投稿: kitten | 2017-06-04 23:59