正露丸の話
昔からある薬の話。今回は正露丸について。
インスパイアされたのは、るるー主さんの4コマだけど、
「無知な薬剤師ですいません~正露丸の巻~」
http://pharmacymanga.blog.fc2.com/blog-entry-227.html
それ以前から、いつか正露丸について書かなくちゃ、とは思っていた。
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正露丸の歴史に関しては、大幸薬品のHPか、ウィキペディアでも詳しい。
大幸薬品、正露丸のページ
http://www.seirogan.co.jp/products/seirogan/seirogan.html
ウィキペディア
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A3%E9%9C%B2%E4%B8%B8
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歴史について簡単に。正露丸は、旧名称「征露丸」という。
「ロシアを征服する」という名前の通り、この薬は日露戦争時代のものだ。
大陸の水が合わない、などで下痢をする兵士の対策として、
「木クレオソート」を含む、感染性などの下痢対策として、用いられた。
木クレオソートは、基本的に消毒薬と同じような構造をもっている。
なので、細菌にも効果がある、と思われた。
(現在では、どうも作用機序は違うんじゃないか、という説が有力)
ここで登場するのが、かの有名な陸軍軍医、森林太郎。
(森鴎外、と言った方が有名だろうが。)
細菌に効果がある、ということは、日本軍を悩ませている脚気にも効果がある、
と思い込んだ森により、征露丸は陸軍で広く使われることになる。
もっとも、脚気が細菌によっておこる、というのは単に森の思い込みであり、
事実ではなかったので、陸軍は脚気で万単位の犠牲者を出すわけだが・・・。
それでも、森は、脚気は細菌によっておこる、という自説を曲げなかったといわれている。
この辺の話は、natrom先生のとこで面白く書いてあったのでリンクしておく。
「やる夫で学ぶ脚気論争」
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20081216
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少し話しがそれた。征露丸は、脚気には残念ながら効果はなかったが、
下痢には十分に効果を発揮した。「ロシアに勝てたのは征露丸のおかげ」
というような(誇張された)宣伝効果もあり、その後も広く使われる薬となっている。
ただ、名前の方は第二次大戦の敗戦の後、さすがに「征」の字はまずかろう、ということで、
「正露丸」という名前に改められたそうな。w
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というわけで、100年ものの薬である正露丸だけれども。
主成分である「クレオソート」については、色々と論争がある。
まぁ、主犯は悪名高い「買ってはいけない」なんだけど。(苦笑)
この辺のくだりも、ウィキペディア読んでもらう方が早いんだけど、
簡単に書いておく。
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ベストセラーになった「買ってはいけない」は、文字通り、
よく売れているけれども、実はこんな危険性があって「買ってはいけない」と
主張する本で、そのなかに正露丸がとりあげられていた。
ところが、「クレオソート」というものには2種類あり、
「買ってはいけない」は、それを混同した上で批判した。
クレオソートは、石炭由来の「クレオソート油」と、正露丸に使われている「木クレオソート」が
あるが、それをごっちゃにして、「木材の防腐剤に使うようなものを飲ませるのか!」
という意味のわからん批判をした。
さらに、「いや、それは別のものと混同してますよ」と批判されると、
「植物性だからといって、安全だとは限らない」とか、
「クレオソートは劇薬である」という主張を繰り返した。
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まぁ、これは正露丸の項目に限らず、「買ってはいけない」は大体、全てそんな感じだ。
「植物性だから安全とは限らない!」って、
そもそも植物性だから安全だ、とは誰も言ってないし・・・。わら人形論法?
「劇薬である」ってのは、薬剤師から見ると笑うとこだ。だから何?って。
劇薬というのは、単に医薬品の分類に過ぎない。主に致死量の少ないものが毒薬、
もう少し余裕のあるものが、劇薬、という分類だけど、
医薬品として使う場合に、致死量まで飲むことはない。
ものすごく大雑把な感覚でいうと、毒薬は10倍量服用すると死ぬかも知れない。
劇薬は100倍量服用すると命にかかわるかも知れない、という感覚。
そんな量を服用しなければ問題ないし、服用させる訳もない。
血圧の薬や糖尿の薬でも劇薬はナンボでもあるし、漢方薬ですら劇薬は存在する。
だいたい、正露丸は劇薬じゃないし。
「劇薬になる成分が含まれている」薬でも劇薬指定じゃない、なんて例はいくらでもある。
そんなこと言い出すと、薬は全部危険、ってことになる。
まぁ、それが正しい、といえば正しいんだけど、正露丸だけ特別扱いする意味はないだろ。w
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じゃぁ、正露丸は全く問題ないのか?というと、私はそうでもないと思う。
だって、100年以上も前の薬よ??
ま、それ言うと漢方薬は4000年くらい歴史ありそうだけどさ。w
おそらく、日露戦争当時は最新鋭の、とてもいい薬だったんじゃないかと思う。
でも、この分野に限って言えば、100年間も正露丸を超える薬ができていない・・・
なんて訳はないだろう。普通に考えて。
もっとも、最近では下痢そのものは止めるべきではない、という説が有力だから、
そもそも下痢を止める薬の需要が落ちているかも知れない。
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使い続けられているだけあって、それなりの効果はあるだろう。
木クレオソートの研究は、21世紀になっても続けられているし、
それなりのデータを出しているようだ。
「発ガン性があるんじゃないか?」という話もあるけれども・・・。
ゼロではないと思うけど、気にするほどの発ガン性はないんじゃないか、と思う。
発ガン性がはっきり認められているものには、「アルコール」とか「熱いマテ茶」とか
あるけど、レベルとしてはその辺じゃないのかなぁ。
常用するのはやめといた方がいいだろう。
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歴史と伝統と、強烈なにおいがあるから、効果はある程度期待できる。
ごく稀に重篤な副作用も報告されているけれども、
100年間販売されていることを考えると、そんなに副作用が多い訳ではないと思う。
ただ、あえてそんなに古い薬を使う必要はないんじゃないかな・・・。
指名買いならば、あえて否定することはないけれども、
「どれがいいかな?」と来られたお客さんに、正露丸を勧めることは、まずない、かな。
だいたい、そんなに木クレオソートがいい薬なんだったら、
医療用でも使われるんじゃないの?医療用で使われてないってことは、
ま、それなりの薬でしかないんじゃないのかな。
by 薬剤師ブログタイムズ
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コメント
正露丸は、子供のころにお世話になりました(^_^;) 。 薬剤師になってから成分とか見て なんじゃこれは(-.-;)と思ってからは全く飲むこともなくなりましたが、あの独特の匂いのプラセボ効果もあったのか!? よく,お腹をこわした私には効きましたよ(^_^)
投稿: すみぱん | 2013-03-28 04:34
>すみぱんさん
実は、私自身も正露丸はそんなにのんだ記憶ありません。
たぶん、生涯で2,3回じゃないかと思います。
それでも、あの匂いの記憶は残っています。w
むしろ、糖衣錠にすると物足りないんじゃないか、とか
思ってしまいますね。
投稿: kitten | 2013-03-30 18:26