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ディオバン、論文に製薬会社が不適切に関与

 まさか、こんなニュースが新聞に載るとは。ユーザーが多いだけに、問題が大きくなるかも。
今日は、軽い話題をアップするつもりだったけど、さすがにこの話に触れない訳にはいかないだろう。


「製薬大手社員、臨床論文に不適切関与 研究の中立に問題」(朝日新聞デジタル)
http://www.asahi.com/national/update/0523/TKY201305220614.html

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 以下、一部引用

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製薬大手ノバルティス(本社・スイス)の日本法人は、社員が高血圧治療薬ディオバン
(一般名・バルサルタン)の効果を調べる臨床研究に関与しながら、論文には社員の
身分を明示しなかったとする社内調査報告をまとめた。データ解析にかかわっていたという。
「不適切だった」として、22日に日本医学会などに報告した。中立性が求められる研究が
「企業寄りではないか」と疑いの目で見られかねない事態となった。

.

 引用終わり。

 何が問題って、これ、朝日新聞の朝刊1面(大阪版では、1面トップ)に載ったってことだ。
しかも、高血圧薬「ディオバン」って結構な大きさの字で書かれた
これ、使っている人が多いだけに、色々言われるんじゃないかなぁ。(苦笑)

.

 もう少し、引用してみる。
以下、引用

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ディオバンは国内売り上げが年間1千億円を超える看板商品。
同社はこうした論文を医師向けの説明文などに引用して宣伝してきた。
論文に社員の名前が掲載されていたが社員の身分は明記せず、
肩書を示す場合は非常勤講師だった「大阪市立大」と記載

.

 引用終わり。

 ディオバンは高血圧の薬。ARBという分類の薬になる。
年間1千億円超、という売上高は、国内トップクラス(少なくともトップ5に入る)。

 これは、結構なスキャンダルになるかも知れない・・・。

 一応、ノバルティス社の公式見解にリンクしておく。
「バルサルタンの医師主導臨床研究について」
http://www.novartis.co.jp/valsartan/index.html

 ま、気になる人は詠んでみて欲しい。

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 まずは、結論を先に。

 ディオバンは、「高血圧の薬」として、血圧を下げる作用に関しては、
全く問題のない薬である。
ディオバンが高血圧に効かないのではないか?
とか、そういう話ではない。

.

 これ先に言っておかないと、まずいかも知れないので。(苦笑)

.

 まず、なんでこんな話が出てきたのか。
実は、ディオバン(バルサルタン)の論文の撤回、という話があった。
京都府立医大が行った研究で「KYOTO HEART Study」という研究。

 実は、この研究。私でも聞いたことあるくらいの有名な研究だ。
ディオバン(バルサルタン)は、もちろん血圧を下げる効果はあるが、
それに加えて、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などを起こしにくくなる、
という副次効果がある、という内容だ。

 この研究は、ノバルティス社が行ったわけではなく、
あくまで、京都府立医大が主導となって行われている、ことになっていた。
つまり、「第三者」による研究の結果、ディオバンの優位性が認められた、と。

 でも、ノバルティス社はこの研究結果を大いに宣伝した。
というか、宣伝に利用した。ある程度はディオバンの売上げに貢献しただろう。

.

 ところが、この研究は今年になって論文が撤回される。
詳細は省く(というか、わからん)が、誤りがあったらしい。
この件に関して、ノバルティス社は散々宣伝に利用したにも関わらず、

「医師主導の臨床試験であり、プロトコールの作成やデータの解析などには
 関わっていないので、コメントする立場ではない」

 との見解を発表していた。
ようするに、「間違ってたのは残念だけど、ウチは関係ないよ」ってことだな。

.

 で、今回の報道だ。
実は、この研究に、ノバルティス社が大いに関わっていたことが分かった、と。
それも、データの統計解析担当、として。
私は、それほど臨床試験に詳しいわけではないが・・・
この、データの統計解析担当って、ある意味、研究の「肝」にあたる。
データをどのように解析するかで、「結果」を(ある程度)操作することができる。
非常に重要なポジションだ。

 そんなポジションに、第三者どころか、当事者がついていた・・・。
それだけでも、問題視されそうだが、それを隠していた、と。
それが、今回の問題である。

.

 この「KYOTO Heart Study」の論文撤回の理由は、イマイチよく分かっていない。
捏造やデータの改ざんがあった・・・のかも知れないけれども、
今のところ明らかにされていない。また、そのような不正があったとして、
それにノバルティス社の社員が関わっていたかどうかもわからない。

 ただ・・・。普通、よほどのことがなければ論文撤回、なんてならないもんだと思うし、
ノバルティス社の社員は、容易に不正を行えるポジションにいた、ってことは事実じゃないかな?

.

 ノバルティス社の見解によると、社員が関わったことを「隠していた」ことが
問題、と考えているようだ。ってことは、ちゃんと明記していれば、
社員が研究に関わっていても問題はない、ってことかな?

 ただ・・・ねぇ。実際問題、KyotoHeartStudyが、「ノバルティス社と関係ない研究」
だなんて思っている関係者は、いないだろ。(苦笑)
あくまで「医師主導」とうたってはいるけれども、ノバルティス社が金を出して
やらせているってのは、まぁ、公然の秘密じゃないかと。

 そんな研究が全てダメ、という訳ではない。
「これは、ノバルティスがやらせている研究だ」と色眼鏡をつけてみればいいだけだ

.

 さて、もう少し研究の背景について。

 血圧の薬で、今、一番メジャーであるARBという系統の薬は、
たいてい、「血圧」以外にも「おまけ」効果をもっている。

 例えば、ロサルタンでは、「糖尿病性腎症に効く」とか、「尿酸を下げる効果がある」とか。
カンデサルタンでは、「心不全にも効果がある」とか。
ほかにも、「腎臓によい」とか、「メタボリックシンドロームによい」とか。

 血圧を下げる作用では、あまり差がつかないので、
そういう「おまけ」効果を発見することで、売上げを伸ばそう、としていた。

 この「KYOTO Heart Study」も、そういう「おまけ」を探すための研究で、
結果として、それが撤回されてしまった、ということだ。

.

 撤回されてしまったからといって、ディオバンに「おまけ」効果がない、という訳じゃない。
「おまけ」があるかどうか分からない、という状態になっただけだ。

 さらに言うなら、本来、期待すべき効果である「血圧を下げる」効果に関しては、
これはもう、疑いようがなく効果が立証されている。

 その意味で、「血圧の薬としては、全く問題ない」と言える。

 どちらかというと、研究者の倫理の問題であったり、
ノバルティス社の不正?の問題。ディオバンが悪い訳じゃない。

 なので、

いま、ディオバンを服用している人は、(当面は)気にせず服用し続けて欲しい

 もちろん、「ノバルティス気に入らないから、薬を変更してくれ」と
医師に相談するのは、アリだと思うが。
いずれにせよ、医師と相談すべき。勝手に薬をやめるようなことだけはやめて欲しい。

.

 なお、この件に関しては、ノバルティス社はまだ調査中である。
今回の発表は、あくまで「中間報告」とのことなので、
さらに、情報が出てくる可能性はある。

 今後の焦点は、論文撤回の事情と、ノバルティス社社員との関係、だな。
ノバルティス社社員の不正によって、論文撤回された、ということであれば、
ノバルティス社にとっては大ダメージだろうな・・・。

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('10~13)仕事(薬局)」カテゴリの記事

コメント

京都府立医大病院が、ノバルティスとの取引停止を早々に決めましたね。
統計処理の担当者がそこの製薬会社の社員だったなんて人をバカにした話です。
確か山中先生のあとで世間を賑わした例の変なオジサンも統計処理の専門家でしたね。

投稿: 世の中甘くない | 2013-05-25 15:56

 コメントありがとうございます。

 ノバルティスって、取引停止にするには大きすぎるような
気もしますが・・・。薬使わないって意味ではないのかな。

 統計処理の専門家って、数少ないんですかね?
見た目、地味ーな仕事ですけど、
この手の研究では非常に重要なポジションなんですが。

投稿: kitten | 2013-05-28 22:51

初めからディオバンのデータって不自然と言われてましたが、なあなあ体質&脛に傷ある者同士のことなかれ主義から表立った意見をする者はいませんでした。
今回一番偉いのは堂々とディオバンのデータに異を唱えた京大講師。
ノバルティス相手に勇気ある行動だと思います。

投稿: 世の中甘くない | 2013-05-29 22:55

 ちゃんと学術誌にのった論文っていっても、
チェックは甘い・・・んですかねぇ?
 それとも、ノバルティスがらみだったから
甘かったんでしょうか??
ちゃんと見ればおかしいの分かりそうなもんですが。

投稿: kitten | 2013-05-30 19:21

表に出ていないと思いますが、以前ひとつの医局のデーター整理や物品の調達などを、あるメーカーのいわゆるプロパー(MR)が丸ごとやっていた話を聞いたことがあります。医師も忙しいので、昔からの慣習に染まっていたのではないでしょうか。

投稿: 困ったくん | 2013-06-06 07:11

>困ったくんさん

 コメントありがとうございます。
昔は、今よりももっと大雑把でいい加減だったんでしょうね。
昔といっても、せいぜい10年やそこらかも知れません。
 研究結果を聞く側の人間も、ある程度の癒着はあるのが
折込済みなので、大して問題はなかったのかも。
ただ、それでは海外レベルでは通用しませんよねぇ・・・。

投稿: kitten | 2013-06-07 23:49

 続きの記事を色々と書いています。
最新の記事は、7月31日にアップしています。
「まだ終わらないディオバン騒動」
http://tukutteha-mitamonono.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/post-2aa3.html

投稿: kitten | 2013-07-31 00:48

以前勤務していた者ですです。JIKEIHEARTでも以前から社員が関与しているのは一般の社員も知っていました。問題とも思いましたが、声を大には立場上言えないのが現状でDIOが発売したころからこの会社はおかしくなったと皆で話し合っていました。

投稿: kk | 2013-08-03 10:00

 コメントありがとうございます。
実際、ディオバンがどこまで売れるかは死活問題
だったんでしょうね。売れる新薬(候補)がどんどん
少なくなっていっている時期ですし。

投稿: kitten | 2013-08-09 09:00

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