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まだ終わらないディオバン騒動

 もう、いい加減飽きてきたけれども、
ここ数日で、ばたばたと動きがあったので。

 本来、水曜日は絵本の紹介か、確定拠出年金の話なんだけど、
そっち系のネタはないし。この記事を明日に回してもよかったんだけど、
せっかくの「旬」な話題なので、一日早めにアップする。

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 ディオバンに関しては、もうたくさん、というくらい記事を書いている。

「ディオバン、論文に製薬会社が不適切に関与」(2013.5.24)
http://tukutteha-mitamonono.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-66bb.html

「ディオバン問題その後」(2013.6.20)
http://tukutteha-mitamonono.cocolog-nifty.com/blog/2013/06/post-5509.html

「京都府立医大が、ディオバン論文の不正を認めた。」(2013.7.11)
http://tukutteha-mitamonono.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/post-da96.html

「ディオバンは悪くない」(2013.7.13)
http://tukutteha-mitamonono.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/post-1f22.html

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 この記事で、まさかの5本目。
一つの話題で5本も記事を書くなんて、ちょっと記憶にないなぁ・・・。

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 さて、最近のディオバン関連のニュースから。
まず、慈恵医科大学が、JikeiHeartStudyに関する調査について、
中間報告を行っている。
http://www.jikei.ac.jp/news/20130730.html

 以下、一部引用する。

患者カルテと論文データを照合した結果、本学研究チームが関与しない
統計解析段階において、血圧値の一部に人為的なデータ操作がありました。
    また、データ解析が製薬会社社員に全面的に委ねられていたこと、
論文に記載された当該社員の所属が不正確であったことにより、
利益相反が指摘されました。
    調査委員会は、これらの一連の事実によって、
論文の科学的信頼性が損なわれたと結論付けました。

 引用終わり。

 上記リンクから、中間報告書そのものも読めるので、
興味のある人は全文読んでみて欲しい。

 京都府立医大と同じく、慈恵医科大学の論文でも、
「血圧値の一部に人為的なデータ操作があった」と報告された。
ようするに、何らかの不正があった、ということだ。

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 ただし、論文不正の内容は、京都の場合とは異なっている。
京都の方は、イベントの発生件数をディオバン有利にした疑いだけど、
慈恵の方は、血圧値の標準偏差を減らすような形のデータ操作が認められて、
心血管イベントに関しては、人為的な操作は認められなかった。

 非常にわかりにくいが、血圧の値の標準偏差が大きい、ってことは、
そもそも「ディオバン服用群」と「他薬服用群」で、有意差が発生してしまい、
この研究そのものが無意味になってしまう・・・らしい。

 あとは、統計解析担当者が、ノバルティス元社員であることを
明示していなかったこと。これは、すでにノバルティス社も認めている。

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 慈恵医大は、問題の元社員にも聞き取り調査を行っているが、
報告書では、「元社員の証言は全面的に信用できない」としている。
元社員は、もちろんデータの改ざんはしていない、と言っているが・・・。
慈恵医大は、「んなもん、信用できるか」ってことだろうな。

 イベント(エンドポイント)そのものに疑いのある京都と違い、
慈恵の方はイベントそのものの不正はないようだ。
血圧データの操作が認められているが、それがどれくらい
研究結果に影響を与えるかは不明。
 結果として、慈恵医大の研究は、ディオバンが優位であるとも、
そうでないとも言えない、あまり意味のない研究になったことになる。

 確実に分かっていることだけを書くならば、
血圧のデータ操作が行われていて、問題の元社員は
そのデータ操作を行うことのできるポジションにいた、ってことかな。

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 さて、ノバルティス社も、第三者機関の調査結果を公表している。
「バルサルタンの医師主導臨床研究に関して」
http://www.novartis.co.jp/valsartan/index.html

 こっちも、ポイントだけ。

ノバルティス社は、以下のことに対してお詫びしている。
・患者様他関係者に、ご心配とご迷惑をおかけしたこと
・ディオバンの医師主導臨床研究に、ノバルティス社の元社員が関わり、
 かつ研究論文への開示が行われていなかったこと。
・これらの研究を引用して、ディオバンを宣伝したこと。

 で、第三者委員会の調査の結果・・・
元社員が、データを改ざんしたという証拠は見つけることができなかった。

.

 
 ただ、この件に関しては色々と報道されているけれども。
ノバルティス社が、「データ操作の証拠がない」と言っているような報道がある。
さらに、それに対して田村厚労大臣が、「納得していない」と言ったとか・・・?

 私は、実際の記者会見を見ていないけれども、
ノバルティス社の公表しているデータや報告書だけを見る限り、
報道は、かなりねじまげられているように感じる

 すくなくとも、田村厚生労働大臣は、報告書見ないでコメント出してないか?
もしくは、報告書を見ても理解できなかったのか。

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 ノバルティス社の第三者委員会の報告書によると、この調査では
そもそも、データ操作の証拠を調査していない
よって、データ操作の証拠など発見できる訳はない。

 また、「証拠がない」というのは、当たり前だけど、
「データ操作をしていないという証拠もない」訳だ。

 なぜそこを調査していないか、というと、
基本(建前上?)、大学の論文にはノバルティス社は無関係なため、
ノバルティス社が論文の元データを見ることができないんだ。
元データもなしで、データ操作なんか分かるなけないだろう。
そこを、「ノバルティス社の調査には限界がある」と言っているわけ。

 ノバルティス社は、そこは、「各大学の調査に任せる」としている。
もっとも、ノバルティス社も最大限の協力はするらしいが。
「元社員」は、かなり非協力的らしいけれども、
 少なくとも、慈恵医大の聞き取りには応じたわけで。
(信用できない、とばっさり切られたが)

.

 じゃ、ノバルティス社は何を調査したのか?
まぁ、これも報告書を読んでもらう方が確実なんだが。
社内のメールとか、サーバのデータとかを洗い出して、
社内の人間が、元社員の行いをどう見ていたか、とか、
元社員がどこまで研究に関わっていたか、また、
関わっていることを上司や上層部が知っていたか、
さらには、大学側が元社員がノバルティスの関係者であることを知っていたか?
(報告書では、知らなかったとは考えられないとしている)

 そういうところを調べている。
だいたい、第三者機関のメンバーに科学者なんて入っていないし。
そもそも、データの不正を調べる調査じゃなかった、ってことだな。

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 んー、もう少し調査が進むのを待つしかないか。
慈恵医大の報告を見る限り、元社員のデータ操作は、
限りなく怪しい、と言わざるを得ないな。
 ただ、そのデータ操作のレベルは、それほどでもないように感じた。

 あくまで私の感想(妄想)だけど、
「よいデータが出れば、そのまま使う。
 少しまずいデータであれば、少しだけデータを操作する。」
全部が全部、データ操作しなきゃいいデータが取れない、というほど
ディオバンはひどい薬ではなかったんだろう。

.

 そうそう、副作用の報道もあったな。

ディオバンで、皮膚障害(SJSやTEN)の副作用が疑われている、とか。
ノバルティス社は、「これは、論文問題とは全く関係ない」という見解だが、
私も、この件に関してはノバルティス社に同意する。

 SJSやTENといった皮膚障害の副作用って、頻度はごく低いものの、
どんな薬でも起こりうる話だ。それこそ、市販の風邪薬でもおこる。
(昔、記事を書いたような記憶があるけどな)

 もちろん、注意は必要だけど、これはディオバンに限った話じゃないし、
論文捏造疑惑とは全く無関係だから。
医療関係者ならそれくらいは分かるだろうけど、報道関係者は分かんないから、
無意味に不安を煽る報道をしているところがあるかも知れない。

.

 ここまでの調査を見る限り、元社員がデータを操作した可能性は
限りなく高いんじゃないか、と思われる。

 ただ、「どの程度の」データ操作だったか、は分からない。
今後は、そこが焦点になるんじゃないかな?
もうそろそろ、ディオバン問題はおなか一杯なんだけどなぁ・・・。

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コメント

今ある認知症のお薬は臨床データをみても指標は主観的なものばかりで客観的にはどうなんだろうと疑問をもってます。
何より実際使ってみて認知症の進行を遅らせている感じが全くありません
ディオバンは少なくとも降圧作用はしっかり下がってる実感があります。
私はディオバン問題よりア〇セ〇トの莫大な医療費を問題にして欲しい。

投稿: 認知症薬 | 2013-08-01 15:30

 認知症は、ほぼ主観でしか判断できないでしょう。
進行を遅らせる、という効果も進行しない訳じゃないし、
使わなきゃどうなるのかの比較も不可能に近いです。
 有効率はせいぜい50%ですが・・・、
他に効果のある薬がないからしょうがないですね。

 もっと昔には、「本当に」効かない認知症治療薬がありました。
私が薬剤師になる前(1990年代)の話ですね。
臨床試験をやり直した結果、承認取り消しになった薬が。
 その辺に比べれば、今の認知症薬ははるかにマシですが。。

 

投稿: kitten | 2013-08-02 22:08

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