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禁忌の意味

 医薬品には、「禁忌」とされているものがある。

「禁忌」とはどういう意味なんだろう?
日本語としては、「してはいけないこと」って意味だけど。

 ようは、「こういう患者に」、「こういう使い方を」してはならない、ってこと。

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 少し前に、降圧薬のARBやACE阻害薬を妊婦に使用して、
胎児に影響が出たから、注意するように、っていう報道があった。
それを受けて、各社から注意書きが出回っている。

 これらの降圧薬は、妊婦に対しては「禁忌」に相当する。
なので、基本的には使っちゃいけないことになっているんだけどね。

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 もっとも、症例を確認したところ、
「妊婦だと気づかずに投与を続けていた」ケースもあった。
妊婦本人が妊娠していると気づかずに、今まで服用していた降圧薬を
服用し続けて胎児に影響が出たパターン。

 いや、それは注意しようがないだろう、と思うけど。(苦笑)
あえて注意するとすれば、妊娠する可能性のある女性には
妊婦禁忌の薬を避ける、くらい?
 ただ、それすると治療にならなくなることも多いしな・・・。

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 医療者の感覚として、「禁忌」ってのは、
「絶対にダメ」という印象はあんまりなかったりする。

、、というか、「禁忌」の中にもいろいろあって
「絶対ダメ」から「場合によりOK」まで、かなり幅があるんだな。

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 例えば、総合の風邪薬、PL顆粒は「下部尿路閉塞性疾患」の患者に禁忌。
また、「緑内障」の患者にも禁忌になっている。

 ただ、実際は結構使われることがあったりする。あえて疑義照会しないことも多い。
例えば、前立腺肥大の患者さんだと、PLで尿が出にくくなる可能性はあるが、
仮に出にくくなったとしても、PLを中止すれば、元に戻る。
 ずっと連用すれば問題だけど、連用する薬じゃないしね。

 「緑内障」の禁忌もよくあるけど、緑内障といっても色々ある。
本当にまずいのは、「閉塞隅角緑内障」の方であって、
「開放隅角緑内障」であれば、実はそんなに問題なかったりする。

 でも、添付文書上は、まとめて「緑内障」で「禁忌」とされている。

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 この状況って、わかりにくい・・・と思う。
例えば、医療事故なんかで、「使ってはいけない」とされている薬を使った、
みたいな報道がされたら、たいていはこの「禁忌」にあたることをやった、ってこと。

 素人が聞くと「なぜそんなことしたの??」と不思議に思うだろうけど、、
「禁忌」でも、ほとんど気にもとめない医師や薬剤師がいるのは事実だ。
これは、実際にそういう「軽い」禁忌があるから。

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 でも、「軽い」禁忌とか、「重い」禁忌って、どこにも書いてない。
もちろん、専門家であれば(ある程度は)わかるんだけど、
少なくとも、一般人にわかるようにはなっていない訳で。

 正直、「禁忌」というゾーンが広すぎて、現実にあってないように思う。
さらに言うと、「禁忌」の下の「注意」ともなると、
もはや誰も気にしていないに等しいのが実情じゃないだろうか。(苦笑)

 実際、併用注意くらいで疑義照会とかしてたら、仕事にならない・・・。

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 この辺の、「禁忌」「原則禁忌」「警告」「注意」あたりのカテゴリ、
ちゃんとわかりやすく整理したほうがいいんじゃないだろうか?

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 さて、妊婦さんに使う降圧薬について。

 私が勉強した10年以上前の記憶では、
妊婦さんに禁忌でない降圧薬って、ヒドララジンとか、メチルドパくらい?

 どっちも、降圧薬としては効果が限定的。
ってか、弱すぎてちゃんと血圧が下がってくれない。

 そうなると、「禁忌」と書かれている降圧薬を使わざるを得なくなる。
経験的には、アムロジピンを使うケースが多いと思う。
もちろん、アムロジピンだって妊婦には「禁忌」だけれども。

 禁忌でも、使わないほうがはるかに危険だったら、使う。当たり前。
それと、アムロジピンは、妊婦に対して比較的安全。
少なくとも、ARBやACE阻害薬よりは、安全。
なので、アムロジピンを使う医師は多い。

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 これで、万が一何か事故があって、
「医師は妊婦に禁忌とされているアムロジピンを処方した」って報道されると、
一般人はどう思うかな?って話。
医療者としては、もちろん説明は必要だが、アムロジピン処方はありえる。

逆に医師がARBを処方したんなら、「おいおい」って思う。
まぁ、なんらかの事情があるんだと思うけど・・・。

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('14~16)仕事(薬局)」カテゴリの記事

コメント

いつもブログ楽しく拝見させていただいています。
僕もこの禁忌は前々からおかしいと思っていました。

うちの患者さま(当院糖尿病治療中)でHbA1cが7.6%あり、某病院におかかりになった時に糖尿病患者に警告/禁忌のジプレキサが処方され服用。それを指摘すると疑義すると開きなおられる始末(お薬手帳をお持ちで堂々と薬剤師がワッペンだけ貼ってくる始末)。

こういう事例は薬剤師をしていれば多々経験すると思います。kittenさんはどうしていますか?

投稿: meme | 2014-09-22 12:23

かぜの時に導尿になった人の話を聞いたら、抗コリン剤の前立腺肥大症への投薬私は疑義照会をするようにしています。
かぜの時の尿閉って結構ありふれているものなのではないかなと思っています。

投薬歴を禁忌センサーにかける形ですが、本当は無治療の人がもっと危険なのではないかと思っています。
導尿になった話をしてくれた方はお二方だったのですが、いずれも投薬治療中ではありませんでした。

緑内障は本当どうしようもないですね。
眼科のお医者さんが太鼓判押してくれるのが一番楽なのですが。

投稿: fujiko | 2014-09-22 18:04

>memeさん

 コメントありがとうございます。
ジプレキサを糖尿患者にですか・・・。
確実に疑義照会しますね、それは。(苦笑)
精神科の医師はそれでいって欲しいんでしょうけど、
糖尿を治療している医師としっかりと連絡取ってくれないと。

>fujikoさん

 無治療だと、発見するのも難しいですね。
あとは、医師をみて疑義照会するかどうか考えます。
少なくとも、泌尿器の医師がPL出してきたら、スルーです。
 PLが禁忌になってるのは、PLがそれほど必要な薬じゃ
ないから、ってのもあるでしょうね。
尿閉のリスク考えると、あえて服用すべきかどうか、と。

 

投稿: kitten | 2014-09-23 15:02

初めて書き込ませていただきます、病院薬剤師会をやっているはっしといいます。

最近だとセララを飲んでいる患者さんにアスパラカリウムが出た例がありました。
カルテを見ると、血清K値が正常値よりかなり低いため疑義照会をしませんでした。
入院中ならばカルテ見れるので比較的わかりやすいですが、外来院外だともちろん疑義照会でしょうし難しいですよね。

Ca拮抗薬は妊娠高血圧にはむしろ推奨でしょうが、もし妊婦さんに何かあった事例がこじれてニュースになった絶対妊娠中禁忌の薬で〜って取り上げられるんだろうなぁ、と思います。
今回のACE/ARBの件も本文読めば本来禁忌になっているってことがわかりますが、Yahooのトピックスだけを見たらまた薬害か、と思わせるような書き方でしたし。

投稿: はっし | 2014-09-23 21:29

病院薬剤師会→病院薬剤師、です。
予測変換されてしまいました(_ _;)

投稿: はっし | 2014-09-23 21:29

>はっしさん

 コメントありがとうございます。
内容が微妙な時は、相手をみますね。
大きな総合病院の専門医なら、疑義照会しないけど、
町医者で、明らかに専門外じゃね?と思ったら照会します。

 検査値が見られたら楽なんですけどね。
一部、検査値を処方せんに書いてくる病院もあるようですが。

投稿: kitten | 2014-09-26 15:59

>禁忌でも、使わないほうがはるかに危険だったら、使う。当たり前。

少し違和感を感じます。
添付文書に「禁忌」と書かれてしまっている薬剤は
日本国では出せない と解釈しています。私。
状況によってはもちろん有益性が上回る場面もあるかと
思いますが・・・。

禁忌(きんき)とは、「してはいけないこと」の意
なのでそう解釈するのが自然かと。

これが「原則禁忌」「慎重投与」なら致し方ないから使うは
もちろんアリだと思います。

禁忌を薬剤師が原則禁忌や慎重投与に置き換えてしまって
本当に良いのでしょうか?
貴殿の解釈は禁忌も原則禁忌も慎重投与も同じになって
いませんか?

投稿: POP | 2016-07-04 14:48

>POPさん

 コメントありがとうございます。
原則禁忌や、慎重投与は、今後、書き方の検討が行われる
というニュースがありましたね。
 ついでに禁忌も整理してくれたありがたいのですが。

 禁忌を「禁忌です」で押し切れるなら、
薬剤師としてそんな楽なことはありません。
実際のところ、そうではないのです。

 禁忌を禁忌でなくしているのは、医師ですね。

 例えば、COPD治療の抗コリン吸入薬は、
前立腺肥大による排尿障害のある患者さんには「禁忌」ですが、
この禁忌も無視されることが多いです。
治療上の有益性の方が高いと判断されているんでしょう。
代替薬に乏しい、という理由もありますが。

 なら、メーカー側が禁忌を外してくれればいいんですが、
彼らは「保険請求で注意されることは無いから」という理由で
禁忌を外そうとはしません。

 禁忌薬を「絶対に出させない」のであれば、
保険側がチェックして切ってしまえばいいんです。
そうすれば、禁忌薬が調剤されることは激減するでしょう。
でも、そうはなっていないんです。
 保険側も、分かっていて黙認しているんですね。

 妊娠高血圧に関するガイドラインでも、
第一推奨こそメチルドパになっていますが、
第二推奨には「日本では禁忌」な薬が入ってます。
もちろん、治療上の有益性が上回る場合、という条件は
ついてますけど、逆に言うと、
「条件さえクリアすれば禁忌薬を処方してよい」と
学会が認めている訳ですよ。

 そういう、馴れ合いのようなグレーゾーンは、
できればなくしていただきたい、というのが
今回の主張です。治療上の有益性で認めるのなら、
禁忌から外すべき、ですよね。

 禁忌を外す薬も少しずつでてきているのでしょうが、
いかんせん、現実においついてないですね。

投稿: kitten | 2016-07-04 23:19

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