「代替医療の光と闇」
書籍の紹介。
「代替医療の光と闇」(ポール・オフィット)
原題は、"Do You Beliebe in Magic?”(魔法を信じるかい?)
例によって、amazonにリンクをはっておく。
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主に、アメリカの代替医療を取り巻く、悲惨な現状を書いている。
日本の方がアメリカよりもまだマシかも知れない。
アメリカでは、効果の怪しいサプリメントや代替医療を勧める勢力が
かなりの政治力をもっており、国民の健康を守ろうとするFDAを
しばしば凌駕するので。
ハーブやサプリメントメーカーの利益のために、
アメリカのこの分野の規制は非常に甘いものになっている。
日本では、安倍さんが首相になってから、規制緩和が進んでいる。
「機能性表示食品」なんかも、安倍さんが、「アベノミクス」の
政策のひとつとして進めたものだ。
もともと、安倍さんが代替医療に好意的なのかもね。
彼ら、サプリメントメーカーや、代替医療の推進者は、
しばしば、国や医師が製薬業界と癒着していると批判するが、
彼らだってやってることは変わらないんだけどね。
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著者は、まず、現代の医療制度には失望している、と説く。
現代の医療は、万能ではないし、多くの問題を抱えている。
これは、否定しがたい事実だろう。
しかし、かといって代替医療が優れている訳ではない。
問題のある代替医療があることも、また否定しがたい事実だ。
むしろ、代替医療の方が万能を装うことの方が多いと思うが。
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代替医療は、そのもの自体が危険であることは稀だろう。
たいていは、効果も薄いが、体に害を与えることも少ない。
大きな問題になるのは、「現代医療の否定」である。
代替医療は、現代医療を否定することがままある。
この本には、通常の医療を受けていれば助かったはずの人が、
代替医療に取り込まれた結果、亡くなってしまったケースが
いくつも紹介されている。
有名どころでは、アップル社のCEO、スティーブ・ジョブズも。
すい臓がんと診断されたが、通常の医療で治療可能だったはずだった。
しかし彼は通常の医療を頑なに拒否し、代替医療で治そうとした。
結果、彼は治療可能なはずの病気で亡くなった。
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また、代替医療者は、そろいも揃ってワクチンを否定する。
(著者は、ロタウイルスワクチンの開発者でもある)
結果として、ワクチンを接種していればかかるはずのない
病気にかかり、命を落とす例もある。
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著者は、プラセボ効果は驚くほど強力だ、と書いている。
代替医療が「効かない」とは言っていないんだ。
分野によっては、むしろ通常の医療よりも有用な場合もある。
安全な物質でうまくプラセボ効果のみを利用できるのであれば、ね。
一番身近な例としては、小さな子どもがケガしたときの
「痛いの痛いのとんでけー」
薬を使うよりも、よっぽど効果があるだろう?
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エピローグにある、シュバイツァーのエピソードが印象に残った。
シュバイツァーはアフリカで近代の医療を行い、
多くの患者を救った。
アフリカには、呪術医がいる。
(効果の不明な)薬草や、呪いで患者を治療する医師(?)
しかし、呪術医とシュバイツァーは、「共存していた」という。
呪術医は、自分で対処できそうな軽い病気や、
心理的な病気に対してのみ治療を行い、
自分に治せない病気に対しては、
「シュバイツァー博士のところに行け」と患者に伝える。
西洋医療の得意分野もあれば、
現地の呪術医の(プラセボの)得意分野もある。
うまく住み分けることができるはずだ、と。
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以下、少し引用する。
(p292-293)
問題が起こるのは、主流医療の治療者がプラセボ反応を
「取るに足りない」と頭から否定したときや、
代替治療師が生命を救う医療の替わりにプラセボを投与したり、
彼らの処方に非常識な価格をつけたり、無害ではない治療を
無害だと勧めたり、そうすべきではないときに呪術的思考や
科学否定主義を勧めるときなのだ。
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引用終わり(改行位置変更は引用者による)
代替医療が、西洋の医療を否定しなければ、
また、主流医療側も、代替医療を頭ごなしに否定しなければ、
共存は可能かも知れない。
強力なプラセボ効果を安全に引き出せるのであれば、
代替医療は、通常の医療よりも有用となりうる。
ただし、相手を騙すようなことさえしなければ。
相手を騙すことなくプラセボ効果を使えっていうのは
それなりに難しい話だと思うけれども・・・。
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通常の医療が、プラセボ効果を使えれば問題ないんだが、
ここには「インフォームドコンセント」の壁があってね。
事前にきちんとした説明が必要になる。
「これは、気休めです」って説明して治療したら。
プラセボ効果は減弱するだろうよ、そりゃ。(汗)
相手を騙すことなく、プラセボ効果を与えるためには、
むしろ、知識が邪魔になることがある。
与えるほうも、「これは効果がある」と信じている方が
プラセボ効果は高いんじゃないだろうか。
頭でっかちな薬剤師の扱うサプリメントほど、
効果の発揮できないものはないな。(苦笑)
たぶん、何も知らない店員が売る方がよっぽど効果あるわ。
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