「ストロングメディスン」
本の紹介。
「ストロング・メディスン」アーサー・ヘイリー
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最初に読んだのは、私が高校生の頃になる。
母がアーサー・ヘイリーが好きだったので、読ませてもらった。
(ほかに、ニュースキャスターとか、エネルギーとか読んだ記憶ある)
日本語訳の文庫本が出たのは昭和63年。
アメリカで発表されたのは30年以上前なんだろうなぁ。
主人公のシーリアは、アメリカ大手製薬企業のプロパー。
物語は、シーリアが夫のアンドルーと結婚する直前。
1957年から1985年までの約30年間の話。
製薬企業の中で、「直感」と「良識」を武器にのし上がっていく話だ。
シーリアの父親は、1941年12月7日に亡くなっている。
ハワイ、パールハーバー。戦艦アリゾナにて。
このとき、シーリアは10歳の女の子だった。
……これだけで、おいおい、いつの話だよ、と思ってしまった。
月日の経つのは早いもんだ。
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この作品は、製薬企業の光と闇を描いている。
また、女性の進出も。ちょうど、アメリカで女性が社会進出を
始めた時代に重なっているので。
現在の日本では、MR(製薬企業の営業職。昔のプロパー)は
女性が増えている。日本でも15年くらい前なら圧倒的に男性が
多かったと思うけど。最近はひょっとしたら女性の方が多いかもね。
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物語の序盤で、「サリドマイド」事件が発生する。
一般的にはもう忘れられているのかなぁ?サリドマイド。
薬学にかかわった人間で忘れている人はいないと思いたいが。
あれだけ悪名高かった「サリドマイド」。
実は、復活しているんだよね。妊婦に使う馬鹿はいないけど。
この作品では、副作用で死亡事故を起こした薬はもう未来がない
みたいなイメージだけれども、そこも、現在では違うなぁ。
あくまで、リスクと利益を天秤にかけるようになった。
妊婦が使うと奇形を生じる薬でも、とある病気の人には有用なら
生き残ることはできる。
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高校生の私に、大きな影響を与えた本だと思う。
私が薬学を志した原点かもしれない。
古い話だけれども、それほど変わっていないことも多く、
現代でも通じるところが多いかも。
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シーリアがOTC部門部門の本部長になった時、
彼女が部下に、OTC(市販薬)と処方薬の違いを聞いた。
以下、引用
「あなたはこの商売の両面を知ってるわ。処方薬とOTCと。
あなたの見るところ、両者の違いはなにかしら?」
「その答えはいたって簡単だ。OTCの大部分はインチキだよ。」
引用終わり。(文庫版・上巻p174)
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私のOTC批判の源流はこれかもしれないなぁ。(苦笑)
さすがに、この時代に比べればマシになってるんだけど、
OTCにインチキの要素が多いのは変わってないな。
実際、シーリアは売上のパッとしない既存の商品の
宣伝を女性目線に変えるだけで大成功を収める。
やったことは、「包装を変える」とか。
(実際に中身はほとんど変わっていないのに)名前を変える、とか。
「製品を変えるのは難しいことじゃない」
「薬の成分を変えるだけでいい、さほど重要でない成分、
例えば香料を変えるくらいで十分だ」
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もはや、医薬品のほとんどは発見され、作られている。
使われたことのない新成分なんか、もう出てこないんじゃないかな。
でも、宣伝、セールスのために、新製品が投入される。
最近、便秘薬のCMで「酸化マグネシウム便秘薬」が宣伝されてるが。
いまさら、酸化マグネシウム?
医療用では便秘薬の基本。ずっと昔からある薬だよ?
化学式も超簡単。MgO。
そんなのが新製品って言うんだから。推して知るべし。
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薬剤師になってから、改めて読み返してみると、また違う感想が出る。
血圧の薬「レセルピン」って、とか。(古すぎる!)
そんな時代から「フリーラジカルの抑制」の研究をしている人もいるし。
80年代に書かれた話としては先見の明がありすぎじゃないか?(汗)
(現実世界で同様の薬が生まれるのは2000年前後の話)
本来、別の作用を狙っていた薬が、思わぬ「痩身作用」があったり、
「性欲増進作用」があったりとか。w
いや、似たような例は現実にもあるからねぇ。w
本来、副作用であるはずの眠気を利用した睡眠薬とか、
「まつ毛が太くなる」副作用を利用したまつ毛増毛薬とか。
前立腺肥大の薬が、男性型脱毛のための薬になったりね。
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物語としては、もちろん薬害の恐ろしさも書かれているんだけど、
素晴らしい薬が、多くの人を救っているところも書かれている。
「薬」ってのは、良くも悪くも、「強い」ものなんだろう。
さすがに話の大部分は忘れていたけれども。
今読んでも、十分に面白い話だった。
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