「リケコイ。」
書籍の紹介。
「リケコイ。」(喜多喜久)
(リンク←amazon)
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私は原則としてボーナスが出るたびに本を買うけれども、
図書館で前もって読んでいて、気に入った本を買うことが多い。
冬のボーナスで、唯一、全く読んだことのない新刊として
買ったのが、喜多さんの「リケコイ。」(集英社文庫)
ここでも何度か紹介しているが、
喜多喜久さんは、東大薬学卒業、製薬会社勤務の薬剤師。
そして、化学(薬学)系のラブコメ・ミステリ作家である。
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タイトルからして、今どきな感じを受ける。「リケコイ。」
そして、表紙はポップな感じのヒロイン(白衣で実験中)の絵。
これは、喜多さんお得意のラブコメものだろう、と予想していた。
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全然違った。(苦笑)
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もうちょっと、ほんわかした癒し系の話を期待したのになぁ。
この「リケコイ。」恥辱にまみれた痛い系の話である。ww
まず最初に、原作者から読者へのメッセージが書かれている。
以下、一部引用する。
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この物語は、若者たちの失敗を描いたものである。
<中略>
大学院一年次~二年次の二年間で森氏が経験したことは、彼を傷つけ、
その後も長きにわたり苦悩を強いることとなった。
<中略>
ただし、森氏に落ち度がない訳ではない。被害者的な面は多分にあるが、
ある面では明らかに加害者的にふるまっており、それが若さゆえの愚行
だったとしても、非難されるべきものだったと「私」は考える。
「私」は森氏に少なからず肩入れしているが、彼を過度に弁護するつもり
はない。むしろ、道化のように描写する場面もあるだろう。
ありていに言えば、当時の彼は明らかにバカヤロウだった。
<中略>
この小説は、同じ轍を踏んだ挙句、終わりの見えない苦しみを味わう
人間をなるべく減らすために集英社文庫の棚に存在するのである。
特に、女性との接点の少ない理系男子には必携の一冊となること
請け合いだと自負している。
<中略>
すべての理系の恋が正しく-後悔のない形で-成就されることを、
「私」は願っている。
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引用終わり。
この作品の執筆者は喜多さんだが、元ネタを提供した「原作者」がいる。
それが、この文章に書かれている「私」である。
この原作者は、作品中にも登場しているが、誰がそうであるのかは
最後にしか書かれていない。この本のミステリ成分はそれだけ。
この「原作者」が作中の誰にあたるのかを予想するだけだ。
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で、作品は主人公の大学院生の「森」氏が、後輩の女性に恋に落ちたが
数々の失敗の挙句に絶望するしかないラストを迎える。
何だろう、リアルでギャルゲーをやっていて、選択肢を間違えまくって
「BadEnd」に行きついてしまったような終わり方をする。(苦笑)
ただ、もともと理系男子はそもそもコミュニケーション力が低い上に、
圧倒的に女性の少ない分野なので、女性との付き合いが少ない。
(逆に、リケジョは周りにそういう男性が多いため、お姫様扱いされて
恋愛経験が豊富なことも多いのだろう。)
まぁ、こんなバカな真似はするなよ、という原作者、および喜多さん、
(そして主人公のモデルになった森氏)の訓戒という本だ。
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こういう理系男子を描かせると、喜多さんはうまい。
(今までの喜多さんの作品の主人公がほとんど当てはまる。w)
いや、一歩間違うと自分もこうなっていたかも知れないな……。
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さて、この本の中で、私が一番気になった部分を紹介する。
実はこの内容、私が学生時代に考えていた内容とピタリ一致する。w
理系の考えることは似たようなもの、ということだろうか。
少し長くなるが引用する。
(p182-183)
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「誰かと付き合うって、すごくエネルギーが必要なことだと思うんです。」
「告白して、OKもらって、それで終わりじゃないもんね」
<中略>
「でも、ちょっと思うんだ。恋愛経験を積むと、心の中に触媒が
できていくんじゃないかって」
「触媒、ですか?」
「うん。化学反応と一緒だよ。触媒があれば、高温や加圧条件が必要な
反応でも、常温常圧で進む。恋愛も似たようなものじゃないかな。
恋が始まるのに必要なエネルギーは変わらなくても、本人の心構えが
できてれば、意外とあっさり壁を越えて行けるんじゃないかなって、
そんな風に思うんだ。まぁ、「慣れ」って言っちゃったほうがわかりやすい
かもしれないけど。」
「……その触媒には、相乗効果がありますね、きっと。
二人ともが触媒を持っていれば、より簡単に壁を乗り越えられるのでは
ないでしょうか」
「確かにそうかもね」
「でも、逆の場合は大変ですね。どちらも触媒を持っていなかったら……」
「反応が始まるにはかなりのエネルギーが必要になる、か。……辛いね、
それ。恋愛が得意な人はどんどん新しい恋を始められるのに、
不慣れな人はいつまで経っても一人っきりってことでしょ」
「そう、ですね。……残酷ですね、恋愛って」
.
引用終わり。(一部改変あり)
改めて読み返すと、また別の味わいがあるな、ここ。
わかる人にはわかると思う。
触媒がないと活性化エネルギーが高すぎて反応が進まないんだ。
ただし、(当時の)私の結論は少し違う。
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逆に、二人とも触媒をもたないで壁を乗り越えられたら、
逆反応は極めて起こりにくいので、ものすごく安定する。
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「触媒」があると、反応性が高いから別の反応が起こってしまって
なかなか落ち着かないよ。w
むしろ、恋愛下手な理系は経験を積んで触媒を手に入れるより、
触媒なしで、膨大なエネルギーを突っ込んで壁を越える方が、
より安定した未来を望むことができる、と思う。
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さて、喜多さんの本の特徴なんだけどね……。
理系を舞台にしているわりに、女性多すぎないか?ww
実際のところ、多くの理系男子にとっては、
「恋に悩むことすらできない」のが実情ではないかと思われる。
喜多さんは薬学出身だからまだ女性は多いのかも知れないが、
工学系はもっと悲惨だと思うぞ。(苦笑)
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