3か月で6000円、1か月で4000円?
仕事(薬局)の話。
健康保険のマジックに関する話。
個人情報を特定されると困るので、少々脚色してあるけれども、
概要としては実話である。
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患者さんは75歳、後期高齢者で1割負担の男性。
難病などの公費を持っている訳ではなく、
お薬手帳を見る限りでは、おおむね健康で、
たまに風邪薬とか胃薬を出してもらっていたようだ。
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この患者さん、ずっと行っていた薬局でもめて、
ウチにやってこられた。それが、記事のタイトルの話。
3か月前に、とある病気(ここは伏せます)でお薬を3か月分出してもらって、
その時のお薬代が六千円だった。
そこそこ体調がよくなったので、このお薬を続けることになったが、
今度はかかりつけの医師にかかって処方箋を1か月分で書いてもらったところ、
薬局ではお薬代が4000円を超えた。
3か月分で6000円で、1か月分が4000円な訳ないだろう。
で、怒ってその薬局を出てきたうちにきたんだけど・・・
ウチで計算しても、1か月分で4000円ちょっとだった。(苦笑)
正直、患者さんの記憶違いかなぁ、と思ったんだけど。
お薬代が間違っているか、お薬の内容が違っているか。
(前の薬局もお気の毒に。)
薬局によってお薬代が変わることはあるし、
お薬手帳の有無や、処方の内容によって、お薬代が変わることはある。
3か月分が6000円なら、1か月分が2000円ちょうど、ということはありえない。
たぶん、2000円とちょっと、というところじゃないかな。
薬は、長期処方であればあるほど、割安になる。
処方日数と完全に比例することはない。
大雑把に言うと一次関数みたいになっていて、
お薬代=技術料+1日分の薬代×日数
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なので、完全比例はしないんだけれども、
技術料はそれほど高くない。
1割負担の患者さんでせいぜい100円やそこらじゃないかと。
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ただ、お薬手帳を見る限りでは、処方内容は患者さんの言っている通り。
で、少なくとも今回のお薬代は前の薬局さんの内容であってますよ、と。
むしろ、前回が6000円で済んだ方がおかしいな、と。
何かミスがあったのかも知れない?
もし、領収書が残っていたら、もう少し詳しく説明することが
できるかも知れません、とだけ言った。
後日、もってきてくれた。(本当に持ってくるとは思わなかった。)
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結論から言うと、患者さんの言うことは全て正しかった。
同じ薬で、3か月分の処方で、自己負担金はちょうど6000円。
でも、今回の1か月分の処方だと4000円くらいになる。
これが全て保険のマジックなんだから、恐れ入る。。
多分、前の薬局さんは、「なんで前回6000円だったか」を
理解できなかったんだろう。これが説明できなかったから
患者さんを怒らせてしまった訳で。
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これ、回答編は別に書こうかと思ってたんだけど、
面倒くさいから、ここで書いちゃうことにする。
自力で考えたい人のために、少し改行を入れる。
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30行くらいあければいいかな?
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こういう保険のマジックって、よくあるんだけれども、
患者さんに理解できないのはしょうがないと思う。
ただ、それをうまく説明するのも、保険薬剤師の仕事の一つ。
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今回の場合は、お薬が減ったのにお薬代が(そんなに)減らなかった。
場合によっては、逆に増えることだってありえる。
これ、説明するのは本当に難しい。
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全く逆のケースで、お薬が増えたのにお薬代が変わらないとか、
逆に薬増えたのにお薬代が安くなるとかいうこともあるんだけど、
そんな時に文句言う人はいないし、
感謝してくれる人もいない。
まぁ、だいたい気づかないことが多いけど。w
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改行はこれくらいでいいかな?
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では、解答と解説。
ポイントは、この患者さんが、「75歳」であったことだ。
あと、安かった時のお薬代が「6000円ちょうど」というのもヒントになる。
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領収書を見れば一目瞭然。
3か月分の時の保険点数は12000点を超えていた。
保険点数は1点10円。つまり、12万円以上。
で、そこから1割負担だから、10分の1で、1万2000円と少し。
でも、このケースだと1万2000円ちょうどになると考えられる。
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高額療養費という制度があるからだ。
その人の保険や収入にもよるんだけれども、
後期高齢者で1割負担の人であれば、
1か月で12000円が上限になり、
12000円を超える分は、窓口で払う必要はなくなる。
(超えた分は、自動的に保険がもってくれるので)
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じゃぁ、なんで6000円なのか。
これは、高額療養費の「特例」にあたっていたから。
そう、問題の3か月処方は、ちょうど75才になった月の処方だった。
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健康保険は、だいたい月単位で切り替わることが多いんだけど、
後期高齢者の保険は、誕生日で切り替わるようになっている。
同じ月でも、75才の誕生日の前日までは、前期高齢者の保険。
75才の誕生日からは、後期高齢者の保険に切り替わる。
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高額療養費制度自体は、前期高齢者でもある。
月額12000円まで、というのも同じ。
ただ、これ月の途中で保険が変わるとややこしくなる。
例えば、月2回の受診として、1回12000円払う場合だと、
1回目は12000円払って、2回目は0円になるのが普通。
1回目で上限まで払ってしまうから。
でもこの手の制度って、保険が変わっても合算してくれない。
75才の誕生月は、月の途中で保険が変わるのが普通。
このときに上限が12000円だと、
前の保険で12000円、後の保険で12000円。
合計24000円になる可能性がある。
それはおかしいよね。月12000円って決まっているのに、
1ヵ月だけ24000円かかってしまうのは。
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そこで、75才の誕生月に限り特例がある。
月の途中で保険が後期高齢者に切り替わる場合は、
上限が12000円から6000円に変わるのだ。
こうすれば、2回かかっても最大12000円ですむ。
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この特例は、「75才の誕生月」のみ発生する。
つまり、この1ヵ月だけは、上限が6000円になるのだ。
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この保険のマジックは超レアケースである。
75年(あるいはそれ以上)で、1ヵ月しか使えない裏技だ。
つまりこの患者さんは、ここしかない、という絶妙のタイミングで、
(普段は受けない)非常に高額な治療を受けた、ということ。
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ひょっとしたら、医師はこのマジックを把握していたのかも。
あえて、一番安くなるタイミングで長期処方ぶっこんだのかなぁ・・・?
考えすぎかな。
保険の負担割合まで詳しく知ってる医師はあまりいないと思うし。
そうすると、単なる偶然。たまたま、一番安くなるタイミングで、
高額の処方をぶっこんだ、と。
患者さんにとっては、ラッキー以外のなにものでもない。
(それなのに患者さんに怒られた前の薬局って・・・)
まぁ、めったにないケースなので仕方ないかな。
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でもこの仕組みは色々と応用できそうだなぁ。
75才という年齢で、タイミングをうまく合わせることが条件だけど。w
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