「蜜蜂と遠雷」
書籍の紹介。
「蜜蜂と遠雷」
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直木賞と、本屋大賞のW受賞となった。史上初のことである。
直木賞はともかく、本屋大賞はねぇ……。
個人的には、恩田さんみたいにガッツリと実績がある人じゃなくて、
「さすが書店員さん」というような、埋もれている才能を掘り起こして
欲しいんだけどな。
恩田さんは、本屋大賞自体も2回目になる。
「夜のピクニック」で第2回本屋大賞受賞済み。
同じ人が本屋大賞を2度受賞するってのも、史上初。
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結論を先に。
この「蜜蜂と遠雷」は、直木賞、本屋大賞をW受賞して当然の作品だ。
本屋大賞の選考では、(投票だけど)当然、2回目であることや
直木賞受賞作であることも考慮に入ってるだろう。
それでも、「今、一番売りたい本」と考えた時に、
この作品を上回る作品がなかったってっことだろう。
それくらい、この作品は突出していた。
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受賞を知ってから、恩田さんの作品は主に図書館で読んでる。
「夜のピクニック」は確かに面白かった。
すかっとした、読後感のよい青春小説。
ただ、恩田さんの作品はそういうものだけではない。
いくつか読んだけど、かなり幅の広い作家さんだと思う。
ホラーっぽい作品もあるし、ドタバタコメディもあるし。
デビュー作の「六番目の小夜子」は、かなり強烈で、
おいおい、そのラストでいいのか、と思った。
もやっとしたものが、いっぱい残る終わり方だったので。(苦笑)
よく言えば、余韻を残す終わり方とも言えるけどね。
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で、蜜蜂と遠雷。
これは、図書館で待つと1年かかりそうなので購入した。
他の作品を読んでも、評判を聞いても、間違いなく面白いだろうし。
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最初に、その本の厚さにビビる。w
500p超、しかも二段組み(1ページが上下に分かれてる。文字多い)
なかなかの超大作だ。(苦笑)
でも、二日で読み切ってしまった。しかも、普通に仕事してる平日の二日で。w
休日だったら、間違いなく一日で読み切っていただろう。
ピアノの国際コンクールの話。
3年毎に開催される、若手の登竜門となる芳ヶ江国際ピアノコンクール。
そこに参加するコンテスタント(コンテストに参加する人)の群像劇。
主人公格は4人。
養蜂家の父とともに各地を転々としていて、
まともに音楽教育を受けていないが、有名な巨匠の弟子であり、
今までのクラシックを破壊する衝撃のある少年、風間塵16歳。
天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビュー
しながらも、13歳で母を亡くし一線から退いた栄伝亜夜20歳。
楽器店勤務のサラリーマンで妻子もおり、
コンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。
完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補、ジュリアード音楽院の
マサル・C・レヴィ・アナトール19歳。
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ほか、審査員側の話もあれば、調律師の話もあり、
ステージマネージャーの話もある。(この人がまたカッコイイ)
1次予選で90人から24人に絞られる。2次予選では半分落とされ、
3次予選に進むのは12人。本戦まで残るのは6人。
徐々に絞られていく感じがたまらない。
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基本的にネタバレはしない方針だけれども、
一つだけ。これ、前半のかなり早い段階ででてくるからいいでしょ。
亜夜とマサルは「マーくん」「アーちゃん」と呼び合う幼馴染み。
10年以上前にマサルがフランスに渡って以来、消息不明だったが、
このコンクールでいきなり再会する。
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もうね、ベッタベタのシチュエーションでしょ、それ。w
あまりにも王道すぎる。ww
この再会エピソードは、クライマックスではない。
むしろ、序盤の布石の一つに過ぎない。なんて贅沢な。
他にも、展開的に「これは王道だよなぁ」と思うシーンは多い。
誰がどうなるのか、ある程度読めてしまうところもある。
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でも、王道はみんなが好きだから王道なんだ。
オリジナリティを目指して奇をてらう必要はない。
風間塵のような、「業界外からいきなり出てくる超新星」とか、
高島明石のような、「努力している苦労人」みたいな設定も、
ありきたりと言えばありきたりでしょ。
それでも、恩田さんはそれを面白くかけるから問題ないんだ。
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盛り上がるのは、第三次予選までで、
実は本戦に入ると、少しだれてくる感じがある。
でも、コンクールを描くとそれも当たり前かもしれない。
もちろん、優勝争いも気になるけれども、
どちらかというと、「入賞できるかどうか」に
みんな力を入れていた感じがするし……。
現実のコンクールもそんなもんかもね。
本戦は、おまけ、みたいな。w
読んでいるこちらとしても、
正直なところ本戦までたどり着いてしまうと、
別に誰が勝ってもいいかなぁ、と思ってしまった。(苦笑)
それよりも、ああ、この物語も終わってしまうんだなぁ、と。
もっとこの話を読んでいたかった、という気分になった。
それって、実際のコンクールでも同じかもね。
第三次予選あたりで、「もう、このお祭りも終わりかな」と。
本戦に進むまでに、それぞれが成長、進化する。
そこが見どころだったわけで。
特に、上位の三人は刺激しあうけれども、
あまり「ライバル」という認識は描かれていない。
むしろ、「同志」という方が近い。
そうなると、誰が勝ってもねぇ。
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おススメは、それぞれの演奏曲をyoutubeで鳴らしながら
本を読むことかな。時間的にアレなのもあるけれども。w
一つだけ注意。
この本、最終ページに最終審査結果が書いてある。
「何ページあるのかな?」とか、「あとがきあるかな?」とか、
「これってどっかで連載されていたのかな?」とか、
「どれくらいのペースで重版してる?」とかで、
奥付を探す人が、うっかり最大級のネタバレを見てしまうことに。ww
ってか、私も見てしまったひとりだ。
別に見たからと言って、それほどどうと言うこともないんだけど、
やっぱり、(少しは)興ざめする人もいるだろうし。
これから読む人には、注意しておいてもらいたい。
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この作品は、2009年から2016年まで連載された超大作。
たぶん、書きはじめの時点で結果を決めていなかったと思うし、
書いている間、作者はピアノコンクールに通ってると思う。w
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私が2017年に読んだ本(現在170冊くらい)の中で、
1冊の単行本としてはぶっちぎりの1位だ。
というか、人生振り返ってもこの上あるかどうか……という。
シリーズ物なら、もっとのめりこんだ話はあるんだけど、
1冊の単行本としての完成度の高さはすごい。
昨年、自分的に1位だったのは西加奈子さんの「サラバ」だったけど、
なんだろう、比較できるものではないと思う。
西さんの作品は、エンタメというよりも、かなり自己主張の激しい小説なので。
その破壊力で人を感動させる。
一方で、「蜜蜂と遠雷」は、メッセージ性はほとんどない。
純粋に、「エンターテイメント」として面白い。
まったく、方向性が違う。
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恩田作品は他にも少しだけ読んでいるけれども、
「チョコレートコスモス」と似ている感じがあった。
「チョコレートコスモス」は、舞台演劇をテーマにした小説だけど、
オーディションの場面の緊迫感が、よく似てると思った。
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もっとも、「チョコレートコスモス」の方を先に読んでいたんだけど。
その時の感想は、「ガラスの仮面」みたい、と。w
「夜のピクニック」もそうだけど、「チョコレートコスモス」も
間違いなくおすすめできる。
ただ、恩田さんの作品のすべてがそうじゃないので(苦笑)。
それもまた面白いところなんだけどね。
伏線張りっぱなしで、いきなり読者を放り出して終わることもある。w
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さて、これだけの話題作だから、
まず間違いなく、映像化の話は出るんだろうけれども、、
これ、ちゃんと映像化できるのだろうか……。
特に、風間塵の破壊的な演奏は、文章でなきゃ伝わりにくい。
いや、実際にそれができる音楽家がいれば問題ないけどさ。
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