昨日、新型コロナに対する医薬品候補について書いた。
大雑把にまとめると、臨床試験の成功確率は
多めに見積もっても20%~30%なので、
期待しすぎてもよくない、という話だった。
ところが、昨日の夜、もう一つの候補医薬品のニュースが入ってきた。
それが、シクレソニド吸入薬だ。(製品名:オルベスコ)
.
「COVID-19肺炎初期~中期にシクレソニド吸入を使用し
改善した3例」(日本感染症学会の症例報告)
気管支喘息の治療薬であるシクレソニドを使用して、
症状が改善した3例についての報告である。
.
これも簡単にまとめると、
シクレソニドは(なぜか)コロナウイルスに対する抗ウイルス活性をもつ。
シクレソニド以外の吸入ステロイドには、抗ウイルス活性は確認されていない。
この抗ウイルス活性は、試験管内の試験では抗HIV薬のロピナビルと同等以上。
まだ3例だけであり、はっきりしたことはわからないが、
どんどん試していって、実績を集めて欲しい。
.
という話。
この3例に関しては、シクレソニド投与後に症状が改善されているが、
実際に効いたのかどうかは、まだハッキリとは分からない。
たまたま、症状が改善するタイミングに切り替えただけかも。
実際は、他の治療法やプラセボと比べてみて、
どの程度の有効性があるのかを検討していくことになるだろう。
基本、「効けば儲けもの」レベルの話に変わりはない。
使い物になる確率は、やや多めにみて30%くらいが相場だろうか。
.
しかし、私は他の抗インフルエンザ薬や、抗HIV薬よりも、
むしろ有望ではないか、という感触を持っている。
抗ウイルス活性は薄くても、吸入ステロイド自体に抗炎症作用があるのが一つ。
何よりも、他の候補薬に比べて(喘息に対する)使用実績が多いため、
副作用があらかた分かっていることに加え、
そもそも副作用が非常に少ない薬であることが重要である。
仮に、効果が他の薬と同等程度の弱さだったとしても、
使用実績の少ない、副作用の多い薬よりも
副作用が少ないことが分かっている薬の方が、
圧倒的に使いやすいからだ。
.
自分自身で考えてみてもそう。
軽症ならば、そもそも薬を使おうとは思わない。
熱が続き、症状が重いときに、薬を使うことを考える。
1.使用実績はほぼ0、副作用の読めない抗インフル薬。
2.使用実績少ない。副作用のある抗HIV薬。
3.使用実績多い、副作用の少ない喘息の薬。
とりあえず試すのなら、「3」になると思わないか?
実際、私も疑いがあれば試してみようと思うし。
シクレソニドを使ったことはないが、私はもともと喘息なので、
吸入ステロイドの使用経験はある。
.
で、今日、たまたま新しい患者さんにシクレソニド吸入薬が処方された。
うちの薬局に在庫がなかったので、卸業者に発注したのだが、
「供給制限がかかってます、しばらく待ってください」と言われた。
どうも、朝のワイドショーでこの薬が取り上げられたらしい。
それを見た医療機関からの買い占めを警戒しての、メーカー側の処置だ。
いや、こんな時に買い占めとかやめてよ……。
まぁ、処方せん受け付けちゃってるから、無理言って入れてもらったけど。
.
これは書くのがちょっと怖いんだけれども、正直に書く。
医師が、COVID-19を疑った時に、シクレソニドを処方することは、
たとえコロナウイルス感染が確定していなくても、不可能ではない。
もともと喘息の人であれば、全く問題なく処方できるし、
そうでなくても、保険病名で「喘息」と診断してしまえば、
シクレソニド処方しても保険通るんじゃないか?
.
そう、メーカーが制限かけたのは、それがあるからだ。
治療薬候補になっている抗インフル薬は、特殊な薬だからまともに流通していない。
抗HIV薬も流通が少ないし、コロナ疑いでは処方できない。
無理やり処方するためには、HIVだ、っていう診断が必要になる。
でも、喘息の薬なら、処方しようと思えば処方できてしまう。。
値段もそんなに高くないし、大した副作用もないので、ハードルが低いんだ。
つまり、医師がCOVID-19の診断なしで、シクレソニドを乱発する可能性は0ではない。
.
まだまだ、期待しすぎはよくないよ。
効果がないかも知れない、というか、その可能性の方が高いくらいだ。
現時点で怪しい症状があるからといって、医師にシクレソニド処方をお願いすべきではない。
ただ、比較的重症でPCR検査できない状態であれば……どうだろうか?
まぁ、一つの可能性として、少しだけ希望をもって続報を待っていて欲しい。
最近のコメント