アビガンが承認されなかった理由
先日、富士フイルム、富山化学の抗ウイルス薬「アビガン」の
新型コロナに対する処方について、承認審査が行われた。
結果、今回は承認されず、決着は来年以降の持ち越しとなった。
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ニュースをみてまず思ったのは、「やっぱりな」と。
早期承認を目指した5月の時点で、劇的な効果がないのはわかっていたし。
効果はあったとしても限定的なものだと思う。
で、ワクチンが出てくるめどが立ってるのなら、
効果が怪しくて副作用が明確に分かってる薬なんか、
そうそう承認される訳ないよね、と。
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でも、承認不可の理由として報道されたのは、
「臨床試験が単盲検試験で行われていたため、結果に疑義が生じた」と。
ふぁ?
なんで単盲検でやったの?
新薬の治験なんて二重盲検でやらなきゃダメに決まってるやん。
案の定、「データの信ぴょう性に疑義が残る」とか言われてしまってる。
これに対して、アビガン信者が「利権だ」とか「政府の陰謀だ」とか騒いでる。
いやいや、単盲検でデータ信用できないなら、承認する方がおかしいよ。
むしろ、承認した方が科学的な知見よりも政治的圧力を優先したように見えて、
後々に禍根を残すことになるだろう。
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まぁ、素人さんは治験がどういうものかわからんだろうから、
(プラセボが必要なことも理解できない人が、治験についてしゃべってもね)
仕方ないっちゃ仕方ないか。
でも、個人的には気になった。
「なぜ、単盲検で試験したの?」と。
こんなん、常識外れもいいところだ。そこで、ちょっと調べてみたところ、
思いのほか、闇が深かったので書いておく。
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単盲検を採用した理由は、はっきりとは分からないけれども、
(治療に当たる医師が難色を示した、という未確認情報あり)
分かっているのは、
単盲検の試験で行うことは、厚生労働省も知っていた、
ということ。
それでいて、別に富士フイルムを注意した訳ではない。
むしろ、企業と一緒になって治験デザインをやったようだ。
つまり、「アビガンの単盲検試験は、国公認のものだった」
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いやいやいや、それやったら単盲検試験であることを理由にして
承認拒否したらあかんやろ。
あんたら(国)がそれでええって言うたんちゃうんか?
いざ承認って時に、やっぱりあかんってどういうことやねん?
ほんまに。
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まぁ、海外の第三相試験(これは二重盲検)の結果などで
承認される道は残されている。
というか、国内でも二重盲検で試験すればよかったのに。
単盲検でも十分な成績を出せれば承認されたんだろうけど、
おそらく、そうではなかったんだろうなぁ。
承認するかどうか微妙なラインだったから、
それを理由にして拒否されたんだろう。
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で、なぜ単盲検で試験したか、なんだけど。
これには、安倍さん(というか当時の首相官邸)が深くかかわっていると思う。
安倍さんはアビガンの早期承認を目指すという、政治家にあるまじき発言をした。
それは、政治が決めていい話じゃない。
でも、当時の安倍さんの力をもってすれば。
厚労省が「総理の意向」を基に何とか早期承認を目指すのは
想像に難くない。(ある意味、「忖度」だわな。)
ただ、今までの法律を全部無視するわけにはいかない。
現行法を(できるだけ)破らないように、どうすれば早期承認できるか。
それが徹底的に議論されたんだろう。
「アビガンの早期承認」が目的だった。
もちろん、臨床試験は必須だ。
でも、あの時点ですでにアビガンの知名度は大きく、
治験が難航することは予想された。
だって、観察研究という形で「確実に」アビガン投与することできるのに、
あえてプラセボの可能性のある臨床試験の参加者を募るのは無理がある。
文字通り、人柱になれ、って話なんだから。
(そういう環境を作った政治の責任もあると思う。)
そこで、何とか体裁を整えて治験する方法が「単盲検」だったんじゃないかな。
臨床試験に対するハードルも低くなるし、結果も評価されやすいから。
で、厚労省は早期承認のために、単盲検での治験をスタートさせた。
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ところが思った以上に感染が広がらず、
5月で治験を終了させることはできなかった。
これは想像だけど、治験拒否した患者さんも多かったんじゃないかな。
(やっぱり、確実にアビガン欲しいよね)
5月下旬に中間報告が出たけれども、
その時点では「まだ有意差はない」状態。
悪くはないけれども、劇的に効果があるわけでもないことがわかった。
5月承認は無理だったけれど、その後も同じ枠組みで治験は続けられた、と。
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結論から言うと、夏の第二波の時点で治験をやり直した方がよかったと思う。
軽症者や無症状感染者がたくさん出たんだから、そこで二重盲検試験すればよかった。
でも、たぶん無理だったんだろう。
同じ薬の治験をやり直すなんて、聞いたことないしできるとも思えない。
どうしてもやり直すのであれば、「前の試験は間違っていた」という必要があるだろうが、
それ言うには、「総理の意向」出さなきゃ言えないよね。
それは言える訳がない。
また、企業側としても「国が認めた方法でやれば、承認される」と思うだろう。
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ところが、である。状況が変わってしまった。
旗振り役だった安倍総理は退陣した。
(しなくても興味失ってたかも知れないが)
レムデジビルに加えて、デキサメタゾンも承認されて、
しかもワクチンができてくるのも現実味を帯びてきた。
そうなると、アビガンを特別扱いする理由がない、、よね。
それほど効果ないことはわかっている訳で。
そんな薬を(総理の意向で)承認したら、また科学者が騒ぐだろうし。(当然だ)
その結果、今回は承認されないことになったんだろう。
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アビガンと富士フイルムは、首相官邸(と世論)に振り回され過ぎた。
じっくりと二重盲検で試験してれば、もっと早く承認されていたかも知れないな。
もちろん、効果が認められなかったら承認されないだろうけど、
それでも、それはそれで仕方ない話だ。効いたら儲けもん、くらいの話なんだから。
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私の感想としては、
「政治家が科学に首突っ込むとろくなことにならない」
専門家に任せておいた方がマシだよ。
もちろん、チェック機構も必要だけどさ。
そういえば、他の治療薬はどうなってるんだろう?
ヒドロキシクロロキンとか、HIVの薬とかはもう効かないだろう。
アクテムラも否定的な話だったような。
シクレソニドの吸入はどうだったのかな?
個人的には一番期待していたんだが。
最近、イベルメクチンがどう、とか言われてるね。
まぁ、本来なら年単位で時間がかかる話。
ワクチンができたとしても、それだけで制圧できる訳ではないので、
治療薬はもちろん必要になる。
じっくり待つしかないのかな。
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コメント
こんばんは
ブログ更新しているのを発見して嬉しい限りです。
尚、シクレソニドは本日RCTの結果出てましたね(むしろ悪化という…)
投稿: るるーしゅ | 2020-12-24 00:56
お久しぶりです。
こそっと片隅で書いてました。
るるーしゅさんの活躍は、ちゃんと見てますよー。
シクレソニドダメっぽそうですね。
ちゃんと一からコロナ用に創薬しなきゃダメなんでしょうが、果たして何年かかることやら。
投稿: kitten | 2020-12-26 12:54