年末恒例の企画だけど、
るるーしゅさんが主催者を降りたらしい。
まぁ、面倒くさいんだろうなぁ。
想像以上に大きな動きになっちゃったし。
【2023読めよ薬剤師企画】
《企画概要》2023年に読んで「オススメ」っていう書籍を他の薬剤師にオススメする
《日時》2023年12月29日(金)21時〜
一応、2022~2023年に発刊された、という縛りがある。
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正直、この企画のために読書記録付けてるので。
今年も参戦する。
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1冊目、フィクション。
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「猫を処方いたします」(石田祥)
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いやぁ、これはもうタイトルだけで売れるの確定。
中身も、まぁ予想通り。
アイデアの勝利としか言いようがないわ。
普通にはたどりつけない心の病院。
たどりつけた患者には、怪しげな医師が、
猫を処方してくれる。
「大丈夫ですよ、
だいたいの悩みは
猫で治りますから」
そりゃそうだ、としか言いようがない。
患者さんは、先生が処方した猫と、
注意事項、餌などをもらって帰宅する。
処方期間は1週間くらいかなぁ。
猫と暮らしているうちに、
(なぜか)悩みが解決してしまう。
アニマルセラピー?そんな生ぬるいもんじゃないよ。
猫様の力を侮ることなかれ。
別に処方されたといっても、世話をするだけ。
猫を吸うとか、そういう訳ではない。(当たり前)
もちろん、少しはファンタジー入ってる。
ただ、処方された猫は全部、普通の(?)猫で
特殊能力とかあるわけではない。
(クリニックのスタッフが普通じゃないけど)
早くも続編が発売されている。
表紙には、「お薬手帳」ならぬ「お猫手帳」が。
そこまでいくと、もはやネタだろ。w
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それはともかく、
メンタルクリニックにおける、薬の立ち位置って?
もちろん、薬も大事なんだけど、
その人の環境はもっと大事なんじゃないかなぁ。
相談できる人がいる、とか、することがある、とかさ。
治療は医薬品だけじゃない。
医療スタッフの態度とか。
昔は「あの人の出した薬はよく効く」みたいなのも
あったなぁ。
ただのプラセボ効果なんだけど、
プラセボ効果、とっても大事だからね。
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次。学術系。
「アルツハイマー病研究、失敗の構造」(カール・ヘラップ)
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アルツハイマーに関して言えば、
今年は新薬、レカネマブの承認が話題になった。
(主に、費用の面で)
でも、この著者はこの新薬含めても、
アルツハイマー病の研究は失敗が続いている、と言っている。
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この本は、学術論文でもなんでもない、一般書。
もちろん、著者は研究者だけれども、
私が読んでもかろうじて理解はできる程度の難しさ。
たぶん、今のアルツハイマーの研究が停滞していて、
それを突き動かすには研究者では難しくて、
研究者外の世論が必要だ、と思ったんじゃないかな。
それで、わざわざ一般書で世間でアピールしているのだろう。
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前半は、アルツハイマー研究の歴史。
結果がどんどんと出てきて、もうすぐ治療薬ができる、
という機運が高まる。それが20世紀末の状態。
中心にあったのは「アミロイドカスケード仮説」
アルツハイマー病は、脳にたまっていくアミロイドβが
原因でおこっている、というもの。
私が学生時代でもそう習った気がするなぁ。
ところが、そこから20年経っても治療薬が出てこない。
研究や実験は続いているんだけど、
思ったような効果が出ていないのが現実。
著者は、
「アミロイドカスケード仮説以外にも目を向けては?」
というのが主張。
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「アミロイドの研究でなければ、
アルツハイマーの研究ではない」
この言葉が、この本のなかで何度も何度もでてくる。
科学的知見からは、もちろんそんなことはないんだけど、
研究費の奪い合いや、政治的、経済的な状況が、
そういう動きになってしまっている。
実際のところ、私はこの著者が
単に迫害された研究者で、
恨み言を言っているだけの印象も感じた。
オレに研究費回してくれれば治療薬作ってやるのに、と。
何度も繰り返し出てくるんだけど、
著者はアミロイド仮説をすべて誤りだと言っている訳ではない。
ただ、アミロイドだけですべて解決する訳はないだろう、と。
実際、アミロイド仮説から出てきた薬は、
アメリカでも議論に議論を重ねた上でようやっと承認されたし、
日本でも、盛り上がってるのはごく一部のみ。
実際に治療にあたっている医師や薬剤師は、
それほど期待していないのが現状じゃないかな。
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私はそれほど勉強していないので
この著者の主張がどこまで正しいのかはわからないが、
少なくとも、アルツハイマー治療薬の開発が
ずいぶん長い間停滞しているのは紛れもない事実だし、
アミロイドだけで全て説明ができないのも
明らかになっていると思う。
今、日本で主流で使われている薬は、
アセチルコリン関係の薬で、アミロイド系ではないのね。
研究が始まって20年以上になるのに、
全然薬ができてこないの。
そりゃ、仮説に問題があるんじゃないの?
という疑問は、当然だと思う。
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研究がうまくいっていないだけではなくて、
明らかに失敗してるよね。
それはなぜか?というお話。
最新の科学研究でも、失敗することはある。
そうした場合に、どうやって修正していくのか。
科学の世界の中だけでは、袋小路から
抜け出せそうにない、というのがちょっとキツかったな。
でも、読んでおく価値はあると思う。
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最後は、ノンフィクション、エッセイ。
「くもをさがす」(西加奈子)
西さんの本は全部読んでる。
西さんは直木賞作家で、私とほぼ同年代。
最新作は、小説ではなくてノンフィクション。
西さん、いつの間にか結婚して子供がうまれてて、
バンクーバーに住んでいるらしい。
そんな西さんが、乳がんになった。
この本は、西さんの治療の記録である。
「カナダで、がんになった」
「あなたに、これを読んでほしいと思った」
あえて、「闘病」という言葉は使っていない。
あくまで治療。闘いではない、と。
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私は西さんの作品をたくさん読んでるので、
ノンフィクションであっても、
西さんの小説の一シーンが浮かび上がってくる。
ああ、このシーンはこの本に似てる、とか。
この表現は、西さんならでは、とか。
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ただ、薬剤師として読むならば、
西さんのがん(トリプルネガティブ乳がん)の
治療の記録は、勉強にもなる。
パクリタキセル+カルボプラチンのあと、
シクロフォスファミド+ドキソルビシン。
フィルグラスチムを自己注射するのか、とか。
そして、カナダの医療事情もよくわかる。
最終的に手術するんだけどね。。
乳がんの手術、日帰り。
ドレーンついたまま退院。
薬局でタイレノールもらって帰れ。
タイレノール(アセトアミノフェン)が
万能すぎる。w
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バンクーバーの町のいいとこ、とか。
カナダのいいところ。よくないところ。
そういうのもたくさん書いてる。
ただね、西さんね。
カナダ人のセリフ、全部関西弁で訳してるのよ。
これが面白い。いかにも西加奈子って感じで。w
そして、哲学的な問いも多い。
この辺は西さんの「i」を思い出したなぁ。
過去のエッセイにもつながるところあるし。
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西さんの小説としての最高峰は、
「サラバ!」だと思っているけれども、
この「くもをさがす」は、
西さんの著作のなかで「サラバ!」に匹敵する。
西さんファンのみならず、
がんサバイバーの人にも読んでほしいし、
今からがんの治療を受けるひとにも読んでほしい。
そして、医療従事者にも読んでもらいたい。
がんの治療を受ける人の気持ちもわかるし、
さらに、がんの治療の勉強までできてしまう。
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いま、がんの治療は日進月歩。
一昔前なら、ステージ4というと絶望的な響きがあったけど、
今はどうだろう?結構、何とかなることも増えてきた。
結果として、がんサバイバーが増えているのね。
そして、そういった先輩方が、新たにがんになった人の
手助けをする。心の支えになる。
「キャンサーシスターフッド」なる言葉がでてきて、
びっくりした。
「シスターフッド」というのは、仲の良い姉妹のように、
お互いを支えあう女性同士の関係のこと。
(これは、柚木麻子さんの「らんたん」読んでほしい。
私も大好きな話)
それに、「キャンサー」がんサバイバーの関係を加えることで、
先にがんになった人が、後からなった人を支える関係ができる。
うわー、すごい世界だなぁ。
もっとも、西さんが人を愛し、人に愛される人だからこそ、
というのはあると思うけどね。
西さんは、本当に友人に恵まれている。
みんなが助けてくれる。
それは、西さんがそういう人だからなんだろう。
西さんが中心にいるから、じゃないのかな。
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今年も、選考に難航。
西さんの「くもをさがす」はもう、
読んだ瞬間から、「これは紹介しなきゃ」だったんだけど。
フィクション枠は、医療系の小説でほかに、
南杏子さんの「アルツ村」や、「いのちの十字路」
先月紹介した、藤ノ木さんの「あしたの名医」なんかもよかったけど、
結局、猫に全部もってかれた。w
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学術系も、瀬名さんの「知の統合は可能か」とか、
「因果推論の科学」みたいな、科学の根本にかかわるような話も
衝撃的だったんだけど、どちらにせよ重すぎ。
タイムリーで(比較的)読みやすいアルツハイマーを採用。
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西さんがなかったら、次点は
尾身さんの「1100日間の葛藤、新型コロナパンデミック」
かなぁ。そういう、コロナの総括みたいな本もよく読んだし。
ただ、コロナはまだ終わってなくて、
年末年始にかけて、また次の波が来そうな気配があるんだが。
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