年末恒例の企画、#読めよ薬剤師2024。
去年から主催者がほどほどさんに変わってるけど、
規模は変わっていない、かな。
ある意味、このブログはこの企画のために
読書記録つけてるところもあるので、
もちろん、今年も参戦する。
2023-2024年に発刊された書籍、という縛りがあるけれども、
まぁ、気にせずに選んでいいんじゃないだろうか。
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まずは、フィクションから。
「スピノザの診察室」(夏川草介)
2024年本屋大賞第4位。
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「神様のカルテ」で大ヒットを飛ばした夏川さんの、
新たな医療小説。
ただ、テーマはかなりかぶっていると感じた。
本作は、京都が舞台である。
そして、おいしそうな和菓子がたくさん出てくる。
また、家族とのかかわりも重要なファクターの一つ。
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愛読書は、スピノザの「エチカ」らしい。
神様のカルテは、夏目漱石だったよね。
神様のカルテとの類似点はかなり多いなと感じた。
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何が違うのか?というと、
単純に、神様のカルテはすでに10年前の話だということだ。
当時とは、医療環境が異なる。
高齢者を無理に延命しないのは、
もはやメジャーになりつつあるよね。
10年前だと、まだまだ珍しかった気がするが。
この10年で社会、医療の在り方が変化して、
また、作者の夏川さん自体も、変化というか進化している。
もちろん、変わるだけではなくて変わらないものもある。
だいたい、スピノザのエチカっていつの時代だよ?w
でも、今でも読まれてるんだもんね。
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このあたりのミックスが、読んでいて心地よい。
神様のカルテは、もちろん続編が出ているけれども、
こちらは続編でこそないものの、
今の時代に合わせた「2.0」という印象を持った。
読む方の私も進化してるのかな?
さすがに、スピノザはハードルが高くてなかなか読めないが。
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2つ目は学術系
「がんはどうやって治すのか」(ブルーバックス)
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国立がん研究センターから出ている、ブルーバックス。
ブルーバックスなんて読むの、何年ぶりだ?
下手したら学生時代以来かも知れない。
がんの治療法に関する教科書のような本。
発売は2023年12月なので、現時点での最新の知見だ。
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現在のがんの治療法は大きく4つ。
「手術」「放射線」「化学療法」「免疫療法」
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この4つが、4本柱として紹介されている。
私の知識では、3本柱だったので、
いつの間にか「免疫療法」が柱になっている、
ってことだ。
ターニングポイントになったのは、
免疫チェックポイント阻害薬。
本庶さんがノーベル賞とった研究。
オプジーボ、キイトルーダという薬は、
日本での売り上げが年間1位、2位だ。
どちらも免疫チェックポイント阻害薬。
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まだまだ昔からの薬も使われているけれど、
治療の選択肢が広がった感じがする。
20年前にくらべても、
「がん」は治る病気になってるな、と思う。
「標準治療」がかなり進化してるな、と。
がん保険とかでも、先進治療まで含めた商品が
主流だったけど、あれ、いる?
先進治療は、「まだ効果の確定していない治療法」
健康保険の利く標準治療がここまで進んできたら、
先進治療を使うメリットってほとんどないんだけど。
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何にせよ、情報のアップデートが大事。
がんに対する怪しい民間療法とか、
まだまだ古い知識でやってるとこも多いから。
いまや、がんは治る病気ですよ、と。
アップデートしていこう。
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余談だけど、私は医療情報のアップデートに、
専門書だけではなくて、一般向けの新書もよく読む。
もちろん、研究者やアカデミックな人は
もっと専門的な本を読んだ方がいいだろうけれども、
町の薬屋のオッサンなら、
この程度の知識でも十分じゃないかな、と思う。
専門書より読みやすいしね。
読みやすさって、結構大事なのよ。
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最後は、問題作。
「安楽死が合法の国で起こっていること」(児玉真美)
正直、この本は賛否両論あると思う。
諸外国の状況から「すべり坂」の問題点はわかるんだけど、
この人自体が障碍者のお子様をもつ当事者なので、
その視点からの意見が、主観的すぎるのね。
でも、そう思う人もいる、ってのは大事なことだし、
ネット上の論調だと安楽死賛成の方が圧倒的多数だから、
「いや、そうじゃないんだよ」という反対意見は、
もっととりあげられていいと思う。
もっとも、児玉さん自身は
安楽死反対派、という訳ではない(と自分で言っている)が。
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言葉の問題から。
「尊厳死」と「安楽死」は違う。
日本では、「積極的な治療を行わない」という
尊厳死は認められている。
安楽死は、積極的に安らかに命を終わらせる、
という行為で、日本ではまだ認められていない。
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この辺、フィクションとしては、
南杏子さんの「いのちの停車場」で取り上げられている。
「今後、回復の望みは皆無であって、
耐え難い痛みが続くだけの状況で、
無益な治療を続けるのは、患者を苦しめるだけ」
という状況であれば、安楽死は肯定されるのでは?
という問いかけだ。
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おそらく、児玉さんもこの状況であれば、
安楽死を否定されることはないと思うんだが。
じゃぁ、何が問題かっていうと、
最初はそういう限られた条件でのみ認められていた安楽死が、
運用していくうちにどんどんハードルが下がっていくこと。
筆者は、これを「すべり坂」と呼んでいる。
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いま、高齢者医療とかで医療費の無駄使いが言われてるよね?
あれって、少なくとも現役世代では共感する人が多いと思う。
でもさ、社会の要請として考えてみると、
「今後も医療費を莫大に使う人」に対してはさ、
「安楽死してもらった方が、社会の負担は楽」なのよ。
これはもう、絶対的にそうだよね。
莫大な費用と手間をかけて、生活を保護してあげて、
ヘルパーを手配して、医療費もかけて・・・。
経済的な面だけで見るとさ、
「さっさと死を選んでくれた方が、社会のため」
になってしまう。
だから、社会の側が簡単に「安楽死」を提案してしまいがち。
そして、どんどん安楽死のハードルが下がっていく。
これが「すべり坂」
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念のため。
これは、私がこの本をそう読んだ、というだけで、
児玉さんの意見とは違うかも知れない。
(少なくとも、ここまで直接的には書いてない)
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私は、これがキリスト教社会でおこっていることに
びっくりしたんだけど。
いや、宗教は何をしてるのさ?と。
この辺の話は、社会科学というよりも、
倫理や宗教の問題じゃないの?
ようは、やり方はともかく、
「自殺を肯定する」社会でいいのか?と。
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これが暴走すると、ナチスみたいになるよね?
「ユダヤ人は生きているだけで罪」
として、強制収容所におくって虐殺したんでしょ。
たとえば、同じことが障碍者相手におこらない、と
言えるかい?
実際、そういう妄想にとりつかれた事件もあったし。
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積極的安楽死を支持するか、しないかは別として、
こういう視点もあるんだよ、というところで
読んでみてほしい。
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うーん、今年はなんか、薬剤師らしくないラインナップかも。
まぁ、薬剤師らしい専門書は、たぶん他の人が
たくさん上げてくれると思うので。
私は、少し外れたところを攻めたほうがいいでしょう。
(ということにしておこう)
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